日本語版 v1.3.3 · ex-doc

#幕府秘密退魔体制

目次

Bakufu secret exorcist, complete upper body from head to waist, official sleeve, blank talismans hidden inside a document case, face restrained and unreadable.

Canon. 幕府が妖魔事件を処理する非公式組織網。


#香 — 名なき役所

その組織に看板はない。ある日は監察の密書であり、ある日は寺の台帳であり、ある日はカグラ藩から来た見知らぬ随行者だ。名がないから消えやすく、消えやすいから長く持つ。

#法 — 組織の運用

  • 秘密退魔体制は単一組織ではなく、事件ごとの臨時連絡網として扱う。
  • PCは正式所属・外部協力者・監視対象・身代わりのいずれかに配置できる。
  • 幕府の助けは資源であると同時に制約だ。証拠回収・報告禁止・事件縮小が常についてくる。

#場面解説 — 命令書なき命令

幕府秘密退魔体制は名がないから扱いやすい。正式組織なら責任の所在が明確すぎるが、名なき連絡網なら事件ごとに別の顔で現れる。昨日は同心で、今日は寺の使いで、明日はカグラ藩派遣隊になる。

この組織をPCの所属として使えば安定した依頼構造が生まれる。ただし安心感だけを与えてはならない。幕府の任務は常に制約を伴わなければならない。事件を解決しても公開するな、妖魔を排除しても藩の名を汚すな、目撃者を生かしても証言させるな。この矛盾が江戸プレイの醍醐味だ。

任務書につける条件:

  • 公式記録には残さない。
  • 特定の家や寺の名は口にしない。
  • 妖魔物品は破壊せず回収する。

#セッション適用 — 名なき所属を与える

  • 最初の場面:PCは正式な辞令ではなく、遠回しな口頭命令と封印された密書を受け取る。
  • 捻り:失敗すれば組織はPCの存在を否定し、成功しても手柄は記録されない。
  • 最後の問い:名なき組織のために戦うPCは何をもって自分の勝利を記憶するか。

#導入短篇 — 濡れた密書

雨漏りする橋の下で監察の榊原玄右衛門は密書を開かなかった。密書は封じられたままでいれば命令になり、開いた瞬間に責任になるからだ。彼は代わりに灯りを低くし、PCたちの顔を一人ずつ確かめた。

「今夜この橋の下で死んだ者はいない」

カグラ藩派遣の武士が目を細めた。「死体が三つございます」

「治安記録にはない」

寺から来た若い僧が濡れた数珠を握った。「魂はまだ去っていません。名を呼んでやらなければ」

玄右衛門はそこで初めて密書をPCに差し出した。封蝋に幕府紋はなかった。代わりに寺請制度台帳に使う小さな印が捺されていた。

「名を呼べば噂になる。噂になれば百物会が来る。百物会が来れば黒札組が値をつける。そうなれば我々は三人を救うのではなく、江戸の夜全体を相手にせねばならぬ」

橋の欄干の向こうから水滴が逆向きに上がった。死んだ荷担ぎが一人目を開け、自分の名を覚えていないままPCを見た。

「命令は簡単だ」玄右衛門が言った。「魂を鎮めよ。物品は回収せよ。そして今夜誰も死ななかったと報告せよ」

その言葉が終わると闇の中から誰かが笑った。人の笑いではなく、台帳から消された文字が紙の上で引っ掻かれる音だった。


#組織カード

項目内容
表面幕府行政と治安の非公式協力網
裏面妖魔事件の確認・隔離・退治・封印・記録抹消
首脳秘密監察、陰陽記録官、寺社顧問、カグラ藩連絡役
現場同心、岡っ引き、旗本剣客、退魔僧、エンリョ館吸収派
強点合法権限、文書統制、治安網、封印資源
弱点責任回避、腐敗、報告遅延、黒札房の浸透

幕府秘密退魔体制は「組織名」ではなく作動方式だ。同じ事件でも命令権者は監察で、実際の資金は寺が出し、武力はカグラ藩が担うことがある。GMはこの体系を一つの本部として描かず、別々の部署が同じ事件を知らぬふりで押し進める形として描く。


#幹部と下部構造

層位代表人物役割扱い方
上層監察榊原玄右衛門命令と隠蔽の最終責任者協力者だが常に記録を先に考える
陰陽記録官源時経霊界門と禁書管理答えは知っているが公開できない人物として使う
寺社顧問青蓮院妙覚葬儀・浄化・封印の名分人の魂を幕府より先に気にかけるようにする
カグラ藩連絡役神楽実矩武力投入承認と現場指揮刀を使いたいが許可を待つ緊張を与える
現場末端同心、岡っ引き、下級僧目撃者回収、検問、物品押収無知か怯えているか既に買収された顔として使う

榊原玄右衛門は悪人ではない。しかし彼は天下泰平を人より大きな言葉として学んだ。PCが人を救えば感謝するが、その救出が記録を揺るがせばPCを叱る。この人物は幕府の光と闇を一つの顔に担う軸だ。


#陣営基盤

[素養] 密命体系

幕府秘密退魔体制の人物は正式命令書なしに現場を統制し、文書と封印を通じて事件の名前を変える。

効果: 証拠回収、現場封鎖、逮捕の名分、公式記録閲覧、隠蔽報告と直接関連したまたはの判定に+1。幕府文書や密命牌を提示できれば+2に増加する。

PC習得時: セッション1回、公式権限が必要な場面でまたはの判定に+3。使用後その事実は幕府記録に残り、GMは次の場面に報告義務や隠蔽条件を付けることができる。

適用: 幕府秘密退魔体制所属の卒〜将ユニットと随伴分隊は固有特性として内蔵する。榊原玄右衛門のような主級NPCは一般特技1スロットに配置する。

Sakakibara Gen'emon on a rainy bridge at night, a haori, a sealed talisman-letter held close, a document case; rain as vertical strokes


#随伴分隊

幕府所属のPCは以下の分隊を事件現場に帯同できる。以下の分隊はすべて陣営基盤[素養] 密命体系を適用する。分隊は戦闘力よりも権限と隠蔽能力で場面を変える。

#幕府検問組 — 卒

戦力 1、防備 12。制圧力 +2 (分隊5名)。

技法:

  • 出入封鎖 [構え] — 持続。同区画を離れる人間NPCの移動コスト+1活力。
  • 名簿確認 [型] — 指揮時。調査場面で目撃者・物品・通行記録のうち一つの所有者を確認する。

#陰陽封印班 — 練

戦力 2、防備 13。制圧力 +3 (分隊3名)。

技法:

  • 仮結界 [構え] — 持続。同区画の霊体・怨霊の最初の攻撃判定-1。
  • 符札固定 [型] — 指揮時。2d10+智(+2)≧13。成功すれば同区画のギミック一つの移動または暴走を1呼吸遅らせる。

#幹部NPC: 榊原玄右衛門 — 主

榊原玄右衛門 — 主
戦力 5、防備 14、活力 12
勇+1、技+2、体+2、智+4、美+3、運+2
制圧力 +4.5
技法種別活力判定効果制限
密命下達[型]32d10+美 vs 対象2d10+勇失敗した人間の卒・練分隊は1呼吸の間攻撃できず待機する間合1回
証拠回収[型]22d10+智≧13現場の物品または文書を一つ幕府記録として封印する。以後の交渉場面で幕府優位セッション1回
監察剣[攻撃]22d10+勇≧防備1戦力
文書盾[技法]予約2/即興32d10+智≧敵攻撃被撃無効。成功時、攻撃者は次の社会場面で不利な記録を一つ残す

特殊:

  • 天下泰平の顔: 玄右衛門が現場にいる間、幕府所属または協力人間分隊の制圧力+1。ただしPCが隠蔽命令を公開的に破ればこのボーナスは即座に消える。
  • 陣営基盤: 玄右衛門は[素養]密命体系を一般特技1スロットとして保有する。

玄右衛門は「良い上官」と「不便な敵」の間にいなければならない。彼はPCを必要とし、PCも彼の資源を必要とする。しかし彼が最後まで守るのは真実ではなく秩序だ。


#光と影

混乱を防ぎ事件を小さく収める被害者の名と怨みまで消せる
寺社・藩の資源を結びつける責任の所在が曖昧で腐敗が潜りやすい
PCに合法的な移動と調査権限を与える失敗すればPCを切り捨てられる
妖魔物品を統制して闇市を減らす統制した物品が内部から漏れ出る

#主人公の所属として使うとき

幕府を主人公の所属として使えばキャンペーンは安定した任務構造を得る。毎シナリオごとに命令書・報告対象・回収物品・隠蔽条件を提示せよ。代わりにPCに道徳的選択肢を与える。命令に従えば秩序は守られるが被害者の怨みが残り、怨みを解けば報告書が偽りになる。


#主要な敵対勢力として使うとき

幕府が敵対勢力のときも「悪の帝国」として使わない。幕府は事件を隠すためにPCを逮捕し、目撃者を隠し、妖魔物品を回収する。その動機は天下泰平だが、方法は人を傷つける。PCが幕府と戦うときは監察を斬る戦闘よりも、記録を取り戻し目撃者を守る場面を先に組む。


#名なき組織

幕府の秘密退魔体制は一つの公式名称を持たない。公式名称が生まれた瞬間、その存在が記録に残るからだ。現場では単に「上からの命令」「文書庫奥からの指示」「寺を経て下りた頼み」として現れる。

この組織は以下の力を結びつけて動く。

役割
幕府監察藩の隠蔽事件を調査
同心と岡っ引き都市現場と下層情報網
寺社葬儀、浄化、封印、神域管理
陰陽記録官古い霊界門と禁書管理
カグラ藩派遣隊通常の治安では対処できない武力対応
風魔系残党潜入、追跡、目撃者回収
エンリョ館吸収派妖魔生態、交渉記録、禁断知識の解釈

#エンリョ館出身者の席

幕府秘密退魔体制の中にはエンリョ館出身者がいる。彼らは公式名簿に「エンリョ館」とは記されない。陰陽記録官補佐・寺社封印顧問・監察顧問・禁書分類担当のように別の名で配置される。幕府は彼らの知識を使うが、彼らの思想は信じない。

彼らはPCにとって重要な協力者になれる。妖魔の弱点、古い交渉前例、百物会が隠す名を知っているからだ。同時に彼らは監視対象だ。足利義彦が玉藻前と内通した疑いで消えた後、エンリョ館出身者には常に同じ問いが付きまとう。「お前も妖魔と取引したか?」

幕府所属のエンリョ館後裔を使うときは以下の緊張を維持する。

  • 能力は確かだ。彼らがいなければ幕府は多くの門を読み解けない。
  • 信頼は制限される。重要な資料は常に上官が回収するか検閲する。
  • 罪悪感が残っている。同門の多くが危険分子と見なされ、一部は裏般若に流れた。
  • 百物会を憎みにくい。百物会が持つ資料の一部は本来エンリョ館が守ろうとした名だ。

#PCとの関係

PCはこの体系の正式構成員でないこともある。むしろその方が良い。公式組織は動きが遅く、文書と体面に縛られている。PCはその隙間で非公式の解決者・派遣武士・寺社代理人・道場の居候・商団護衛として動く。

PC所属任務
幕府監察補助藩の報告と実際の現場の比較
カグラ藩派遣隊妖魔戦闘と封印現場確保
寺社代理怨みの解消、葬儀、神域浄化
浪人・道場居候公式記録に残しにくい武力解決
商人・芸人情報源噂と物流の追跡

#限界

幕府は強い。しかし現場を知らない文書、藩の体面、腐敗した役人、暗躍勢力の浸透、百物会の噂の前では遅い。この限界がPCの必要性を作る。


「看板のない役所は誰も責任を取らない代わり、誰にでも命令できる。」