#妖魔の顔たち
目次
この章は図鑑ではない。一覧を覚えさせるための章でもない。各妖魔の顔をしばし覗き込む章である。
#山から来る者たち
#鬼 (おに)
最も有名な妖魔。 赤い肌、青い肌、黒い肌。角。牙。鉄の金棒。大きい — 人の二倍、三倍。
鬼は一つの部族のように生きる。山奥に彼らだけの村があるという。頭目がいて、その下に手下がいる。人間と似ているが異なる種族。
鬼は酒を好む。酒吞童子(しゅてんどうじ) — その名自体が「酒を飲む童子」 — は最も有名な鬼の王。彼は京都の近くの大江山(おおえやま)に住み、人間の女を拉致した。源頼光(みなもとのよりみつ)と彼の四天王(してんのう) — 渡辺綱・坂田金時(金太郎の原型)・碓井貞光・卜部季武 — が彼を酒に酔わせた後に首を斬った話は、日本人なら誰もが知っている。この四天王はまた土蜘蛛(つちぐも) — 巨大な地蜘蛛の妖魔 — をも退治する。戦国の武士たちの夢は、この頼光四天王の後継者となることであった。
鬼が悪いわけではない。ただ我々と異なる掟で生きているだけだ。彼らにとって人間は — 時に食料、時に遊び相手、時に隣人。彼らの視点から我々を理解しようとすれば — 彼らがなぜ我々を連れ去るのかが理解できる。理解したからといって許せるわけではない。
「鬼は山の秩序だ。人間の秩序が山に入れば衝突が起きる。」 — ある山伏の言葉
#天狗 (てんぐ)
深い森の主。 人間の体に鳥の特性が混じっている。
- 烏天狗(からすてんぐ) — 烏のような嘴。黒い翼。体格は人間ほどの大きさ。
- 大天狗(だいてんぐ) — 長い鼻。顔が赤い。山伏の装束。時に翼があり、時にない。
天狗は傲慢である。自分が人間より優れていると信じている。話しかければ — 見下す。無視する。しかし — 優れた武士・山伏は天狗が師として受け入れることもある。深い山で数ヶ月共に過ごした後 — その武士の剣術は奇跡的に上達する。
天狗の問題は — 悪戯だ。道に迷った人間を故意にさらに深い山奥へ導く。笑いながら。天狗の悪戯に嵌まった者は何日も山中を彷徨う。家に帰れないこともある。
#山の老婆 (山姥・やまうば)
山奥の長い髪、ぼろぼろの衣の女。老いているが非常に力が強い。
伝承は分かれる — 喰い殺すという話と、助けるという話が両方ある。おそらく実際にもそうなのだろう。ある山姥は危険で、ある山姥は親切だ。出会った者の態度によって変わる。無礼にすれば喰われる。丁重にすれば — 食事をもらえることもある。
#水から来る者たち
#河童 (かっぱ)
川の子どものような存在。 緑色の肌。人の子どもほどの体格。手足に水かき。背に亀のような甲羅。
河童の特徴は頭上の皿。水が入った小さな窪み。この水が乾くと — 河童は弱くなる。だから河童と相対する時はお辞儀をさせる — お辞儀をする際に皿の水がこぼれるから。
河童は相撲が好きだ。通りかかった人間に一番勝負を挑む。人間が勝てば — 河童は約束を守る(川では害を与えない)。負ければ — 川へ引きずり込まれる。
河童は胡瓜が好きだ。川岸に胡瓜を置けば — 河童がその家に害を与えないという古い契約。今も多くの村で夏に川岸に胡瓜を置く。
#海坊主 (うみぼうず)
海の巨大な坊主頭の僧。 海の荒れた夜に現れる。黒い体。目がないこともある。
漁師が夜に海へ出かけると — 波の間から巨大な顔が浮かび上がる。坊主頭の僧の顔。言葉をかけてくる — 「苦しいか?」 答えを間違えると船が転覆する。正しい答えはないという。沈黙が最善。
#人から生まれた者たち
#怨霊 (おんりょう)
恨みを抱いて死んだ者の霊。 この時代に最も多い。戦が多いからだ。
形は様々だ。
- 白い衣の女。長い黒髪が顔を隠す。足がない(地に触れず浮かんでいる)。
- 鎧を纏った武士。首がなかったり、体が半身だったり。
- 幼子。泣き声だけが聞こえ、姿は見えないこともある。
怨霊の特徴は — 特定の人物・家門・場所に縛られていること。その縛りが解かれなければ — 代々に渡って呪いが続く。本人の恨みを解くことが唯一の解決策。怨霊を単に斬るだけでは — また戻ってくる。
#生霊 (いきりょう)
生きている者の霊が強い執着によって形を成すもの。 最も奇異な妖魔。
当人は自分の体がそこにあると思っている。普通に働き、食べ、眠る。しかし彼の魂の一部が — 執着の対象の家の窓辺に立っている。夜間に。窓越しにその人を見守っている。対象は感じる。冷たい気配が窓の外から自分を見ていることを。
生霊を誰も知らない — 本人も、対象も。知れば — 解かれる。しかし知るまでが難しい。
有名な例として源氏物語の六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)。彼女の嫉妬が生霊となって相手の女を殺す。本人は知らない。後に夢の中で自分の髪に不思議な香りが漂っていたことで — ようやく気づく。
#餓鬼 (がき)
餓死した者の霊。 永遠の飢えの中にある。
形は凄惨だ — 骨ばかりの体。口は非常に小さく喉は非常に細くて何も飲み込めない。だから永遠に飢え続ける。戦場の屍を喰い荒らす。幼子の魂を食らおうとする。
餓鬼は哀れな妖魔だ。彼らの本性が罰だ。生前の貪欲が死後に飢えとなって返ってきた。仏教の教えにおいて餓鬼は六道輪廻の一段階。
#雪女 (ゆきおんな)
雪の中で出会う女。 白い肌、黒い髪、白い衣。美しい。身を切るように美しい。
吹雪に閉じ込められた者の前に彼女が現れる。近くへ来るように言う。近づけば — 凍り死ぬ。しかし時には — 哀れに思って生かして帰すこともある。ただし条件がつく。「今日見たことを誰にも言うな。」
言わなければ — 生き残る。言えば — 彼女がまた来る。
この条件を破った者の話は多い。人間の口が軽いから。
#古いものから生まれた者たち
#付喪神 (つくもがみ)
100年経った道具に霊が宿ったもの。 この時代に最も多く現れる。捨てられた物が多いから。戦が多いから。
様々な顔。
- 傘化け(かさばけ) — 傘の妖魔。片足、片目、長い舌。
- 提灯お化け(ちょうちんおばけ) — 提灯の妖魔。顔の生えた行灯。
- 暮露暮露団(ぼろぼろとん) — 古い布団の妖魔。人に覆い被さって窒息させる。
- 一本踏鞴(いっぽんたたら) — 片足で跳び回る鍛冶場の鎚の妖魔。
付喪神は総じて軽い。悪戯をする程度。しかし — 長く放置された恨みが混じれば危険になる。主人に捨てられた刀が100年蓄積した無念を抱えて付喪神になれば — それは危険な妖魔だ。
#狐 (きつね)・狸 (たぬき)
化ける妖魔。 日本の民話の常連。
- 狐 — 若い女に化ける。美しい。誘惑する。共に暮らして子をもうけた例もある — しかし昼間に尾が見えた瞬間正体が露れる。見破られれば消える。
- 狸 — 老いた僧に、あるいは物に、何にでも化ける。狐よりいたずら好きだ。狐は致命的で、狸は滑稽だ。
狐の中にも神聖な狐(稲荷の使い)と妖狐(害をなす化け身)がいる。見分けが難しい。自分でも境界が曖昧だ。
#その他の顔たち
- 稲荷の使い — 白狐 — 稲荷神の使い。祀られれば神、傷つければ妖魔。
- 鵺(ぬえ) — 様々な獣が合わさった怪獣。猿の顔、虎の体、蛇の尾。夜の鳴き声が凄まじい。
- 鎌鼬(かまいたち) — 風に紛れて人を斬る小さな鼬の形をした妖魔。傷はあるのに血は出ない。
- 轆轤首(ろくろくび) — 夜に首が長くなる女。昼は平凡な人間のように見える。
- 船幽霊(ふなゆうれい) — 船で水を乞う海の幽霊。水を与えれば — 船を沈没させる。底の抜けた杓子を用意しておかなければならない(水が落ちるので幾ら汲んでも足りない)。
一覧はさらに長い。はるかに長い。日本の民俗学者の書物には数百種の妖魔が記録されている。この章は — 顔をいくつか見せるだけだ。
#この顔たちの読み方
各妖魔の名を覚える必要はない。印象だけ残せばよい。後でセッションでGMが「鬼が現れた」と言った時 — その鬼の大きさ、肌の色、酒を一本欲しがる姿が想像できれば十分。
妖魔は一覧ではない。妖魔は隣人だ。一人の隣人の名を知らないまま出会うこともある。大切なのは — 出会った後に何をするかだ。
#一文で
妖魔は名が多く顔が多い。その顔一つひとつが — この世界が人間だけのものではないという事実を思い起こさせる。
