#混世霊妖譚とは
刃と妖魔の戦国時代。このゲームが他のゲームと違うもの。
#香 — 世界の輪郭
次の土曜日。同じカフェ。同じ席。
クロがノートを開いた。今度はページいっぱいに書き込まれていた。地図、勢力図、年表。そして一枚の絵 — 霧深い戦場で刃を持つ武士が、赤い目の巨大な影と向かい合っているスケッチ。
「今日は世界の話をする」
ハナが身を乗り出した。メイはコーヒーを一口飲んだ。
「戦国時代は知ってるよね?」クロが尋ねた。
ハナが手を挙げた。「応仁の乱以後、約百年間の戦乱期。大名たちが天下をめぐって争った時代。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康 — 三人が天下を統一していく過程ですね」
「教科書みたいな答えだね」クロがうなずいた。「混世霊妖譚の戦国時代もそこから始まる。でも一つだけ違う」
クロが絵を指した。赤い目の影。
「妖魔がいる。」
「百年前、霊界の門が開いた」クロが言った。「霊界 — 死者の世界、時間が歪む世界 — と現世の境界が弱くなったんだ。その隙間から妖魔があふれ出た」
メイが尋ねた。「クトゥルフ神話の門のようなものですか?」
「似ているけど違う。クトゥルフの恐怖は『人間には理解できないもの』だろう。妖魔の恐怖は『人間があまりにもよく知っているもの』だ。嫉妬、怨恨、貪欲、怒り — 人間の暗い感情が形を持ったものなんだ。小鬼は怒り、怨霊は怨み、九尾の狐は執着」
ハナがつぶやいた。「じゃあ、妖魔を殺しても終わりじゃないんだ。感情が残っていたら、また生まれるってことだから」
クロが笑った。「その通り。妖魔を『斬る』のは応急処置だ。本当の解決は怨みを解くか、封印するか、浄化することだ。でも戦国時代の武士たちは — 刃しか知らない」
「だから密教僧や陰陽師が必要なんですね」とメイが言った。
「そう。このゲームで戦闘は刃だけでは終わらない。刃で妖魔を倒し、経文で封印し、陰陽術で浄化する。武士と僧侶と陰陽師が力を合わせなければならない」
ハナが尋ねた。「侍は何をするんですか? 刃を振るだけですか?」
クロは首を振った。「侍は前列を守る。戦場には区域がある — 味方側、敵側、その間。侍は最前面に立って、敵が押し込んでこないように止める役割だ。そして足軽 — 槍兵や弓兵の分隊 — を指揮する」
「分隊を指揮するんですか?」ハナが目を丸くした。「個人戦闘だけじゃないんですか?」
「違う。このゲームの戦闘は部隊戦だ。英雄一人が戦場を一人で支配するのではなく、兵士たちと共に戦う。英雄が刃を振るう間、足軽が槍で前列を守り、後ろでは弓兵が矢の雨を降らせる。英雄は強いが、兵士なしでは戦場を守れない」
メイがうなずいた。「CoCとは完全に違いますね。CoCは一人で図書館で狂っていくゲームですから」
クロが笑った。「ここでは狂う代わりに — 分隊が崩れると戦線が破れる」
「でも、なぜ戦うんですか?」メイが尋ねた。「妖魔だけ退ければいいんじゃないですか?」
クロの表情が真剣になった。「人間同士も戦う。戦国時代だからね。大名同士が領土をめぐり、寺院は武装僧兵を起こし、商人は裏で戦争物資から金を稼ぐ。妖魔はその戦争の隙間に入り込む。人間が人間と戦っている間に、妖魔は強くなる」
「つまり人間の敵は妖魔でもあり、同時に人間でもあるんですね」とハナが言った。
「そう。そしてその間でキャラクターは選択をしなければならない。領主の命令に従うのか、自分の信念に従うのか。妖魔を斬るのか、理解するのか。仲間を守るのか、任務を遂行するのか。その選択が集まって — キャラクターの物語になる」
ハナが静かに言った。「それが……三道六心?」
クロがうなずいた。「他のゲームの性向体系 — D&Dの善/悪、秩序/混沌のようなもの — の混世霊妖譚版だ。忠、覇、慈、虚(虛)、真(眞)、魔。六つの心。キャラクターがどんな選択をするかで心が変わり、心が変われば — 物語も変わる」
カフェの外は暗くなっていた。ハナはクロのスケッチを見つめていた。霧深い戦場。刃を持つ武士。赤い目の影。
「私はこの武士になりたいです」とハナが言った。
「なら作ってみよう」クロが言った。「来週に」
メイが静かに尋ねた。「私は……妖魔側はできませんか?」
クロが目を細めた。「妖魔側?」
「妖魔を操ったり、妖魔の力を使ったり。CoCでも結局、狂人が一番面白いじゃないですか」
クロがノートをめくった。あるページに「魔人」と書かれていた。
「ある。でも — あとで」
戦国時代の戦争は、人間同士の戦いだった。だが霊界の門が開き、刃では斬れないものが現れ始めた。これが混世霊妖譚の世界だ。
#法 — セッション実録
クロ: 「さて、混世霊妖譚が他のTRPGと何が違うのか整理しよう。五つ」
ハナ: 「五つですか?」
クロ: 「一つ。ダイスは2d10だけ。d4も、d6も、d8も、d12も、d20も使わない。10面体二つ。合算。2から20。ダメージダイスもない — 当たれば1、大きく当たれば2。終わり」
メイ: 「ダメージロールがないんですか? CoCでは武器ごとにダメージダイスが別にありますけど……」
クロ: 「ない。攻撃が成功すれば、敵の『戦力』が1減る。大成功なら2減る。戦力が0になれば倒れる。戦力は体力点ではなく、致命傷を何度耐えられるかに近い。一般兵士(卒)は戦力1 — 当たれば即死。将級・主級(いわゆる『ボス』)でも戦力3から5程度。だから戦闘が速い」
ハナ: 「刃で一撃で死ぬことがあるってことですか? 足軽が?」
クロ: 「うん。実際の戦国時代でも、足軽は一本の矢で死んだ。このゲームはその残酷さをそのまま反映する。その代わり — 君たちPCは戦力が少し高い。侍が戦力4くらいなら、四度当たらないと倒れない」
メイ: 「……CoCより生存性が高いかもしれませんね。CoCではショットガン一発で即死ですから」
クロ: 「二つ。行動資源が時間軸でもある。『活力』という資源がある。これが行動資源であると同時に、『いつ動くか』を決める。活力が高い者が先に動く。そして行動すると活力が減る。すると次は後で動くことになる」
ハナ: 「イニシアチブが毎回変わるんですか?」
クロ: 「そう。一度の戦闘の中で何度も行動するが、行動するたびに順番が変わる。速く多く動けば早く疲れ、ゆっくり温存すれば最後まで粘れる。この資源管理が核心だ」
クロ: 「三つ。戦場は区域に分かれる。グリッドマップではない。『味方前列』『敵前列』『心府』『後列』『外郭』のような区域があり、区域ごとに有利な武器と不利な武器が違う。槍は前列で強く、短刀は心府で強く、弓は後列で強い」
メイ: 「Blades in the Darkの位置システムみたいなものですか?」
クロ: 「似ているが、もっと戦術的だ。区域ごとに『制圧力』という数値があって、味方が掌握した区域では有利になり、敵が掌握した区域へ押し込むには『突破』をしなければならない」
クロ: 「四つ。分隊を指揮する。PC一人で戦うわけではない。足軽五人の槍兵分隊、弓兵分隊を率いる。分隊に命令を出すには活力を使わなければならない。智が高ければ割引され、低ければ高くなる。分隊が崩れれば戦線が破れるから、分隊管理が戦闘の半分だ」
ハナ: 「分隊の士気があるんですか?」
クロ: 「『結束力』と呼ぶ。基本3だ。0になれば分隊が逃げる。敵の攻撃や大将の死で下がり、浄土僧や芸人が上げることもできる」
クロ: 「五つ。三道六心。性向体系。礼道(禮)・空道(空)・玄道(玄)、三つの道。それぞれの道に明るい心と暗い心がある。忠と覇、慈と虚(虛)、真(眞)と魔。キャラクターの行動によって心が変わり、心は達人段階で最終能力に影響する」
メイ: 「SAN値……みたいなものではないですよね?」
クロ: 「違う。SANは『減るもの』だけど、三道六心は『変わるもの』だ。減るというのは悪くなるということだろう。三道六心は悪くなるのではなく — 変わるんだ。忠から覇へ変わるのは『悪い人になる』ことではなく、『別の道へ行く』ことだ。どちらが正しいかは — 物語が終わらなければわからない」
ハナ: 「……それ、いいですね」
クロ: 「整理。混世霊妖譚の五つの特色。2d10だけ、ダメージなし、活力=時間、区域+分隊、三道六心。 来週は実際にダイスを振ってみよう」
ハナ: 「楽しみです!」
メイ: 「私もです。でもやっぱり、狂うオプションはないんですよね?」
クロ: 「人間性が0になれば鬼になる職業はある」
メイ: (目が輝く)「……それですか?」
クロ: 「あとで」
二つのダイス。五つのルール。一つの世界。来週、英雄が生まれる。