日本語版 v1.3.3

#スペルルール哲学

目次

Spell system study detail, hand hovering above blank talismans, beads, and an unmarked slot board, all paper surfaces empty, tension before casting.

#§ 香 — 技法とスペル、手と言葉

本編の呪術・退魔は技法を中心に置く。陰陽師が「符弾」を使うなら、それは構えに乗せた手さばきだ — 自身の能力に従属した自由な表現。

本モジュールはその場所にスペルを置く。陰陽師が「火炎投射」を唱えるなら、それは予め準備した一言の呼びかけだ — 定型化された作品を呼び出す力。

技法は手の記憶であり、スペルは言葉の記憶である。二つの思想は異なるゲーム体験を与える。


#§ 香 — 呪文は呼吸の一束である

本編は拍(拍)と呼吸の体系だ。武士の一撃は一呼吸で終わり、一間合は複数の呼吸が集まって流れる。拍が崩れれば戦闘が崩れる。

呪文も同じ拍子の上で動く。短い呪文は一呼吸の中で手印と真言が噛み合って完成し、長い呪文は複数の呼吸・複数の間合にわたって手順を積み上げる。呪文が技法と異なる点は準備段階の可視性 — 印を結ぶ手、唱える真言、描く符はすべて戦場で見える。敵もそれを見る。

したがって呪文の時間は「どれだけ長いか」だけでなく「どのように分かれるか」で表現される。一呼吸に複数の手順が圧縮された呪文(手順型)と、複数の間合にわたって物理的な時間が必要な呪文(時間型)は、根本的に異なる種類の呪文だ。


#§ 法 — 三つの時間単位

本モジュールの呪文は三つの時間単位のいずれかに属する。

#1. 即発 (卽發)

一呼吸で完成する呪文。活力 N の単一表記。

反応性が必要な呪文 — 敵の攻撃の瞬間に発動する防御結界、瞬間的な回避呪術、緊急の解除 — は本質的に即発でなければならない。また、低い段数の基本呪文もこれに属する。

#2. 呼吸分散 — 準備 (準備)

同じ間合の中で複数の呼吸にわたって展開する呪文。表記 N+M(準備)

最初の呼吸で印を結ぶか真言の最初の一節を唱え、続く呼吸で仕上げる。一呼吸の中に始まりと終わりが収まらない — 同じ呼吸に準備と発動の両方を試みるのは拍が崩れた行動だ。

手順が複雑な呪文 — 複数の印の組み合わせ、複数の真言の連鎖 — はこの構造を持つ。術者は活力さえ十分なら一間合の中で呪文一つを完成できる。

#3. 間合分散 — 分散 (分散)

複数の間合にわたって積み上がる呪文。表記 N+M(分散)

一間合で準備の一段階を終え、次の間合で発動する。物理的な時間が必要な呪術 — 祭儀、儀式、気脈の流れの調律、霊的通路の開放 — がこれに該当する。

この呪文を一間合の中に強制的に完成させようとすれば脱尽する。判定なしで自動だ。時間を圧縮した代償として術者の精神が折れるのだ — これが(分散)表記の核心となる費用である。

#混合と拡張

二つの分散方式は混合できる。

2+2(準備)+3(分散) — 最初の間合で二呼吸にわたって手順を積み上げ、次の間合で発動する。「複雑な手順 + 霊的な流れの待機」が結合した大呪文。

1+2+3+4(分散) — 四間合にわたって活力が漸増する時間型の大呪文。「積むほど深まる」祭儀呪術。

4+3+2+1(分散) — 逆に活力が漸減する構造。「すべてを先に注ぎ込み最後に収める」劇的な呪術。

表記の最後の数字は常に発動活力だ。それ以前の数字が準備段階の配分。


#§ 法 — 準備は構えだ

詠唱の準備段階は[構え]として扱う。本編の構え体系がそのまま適用される。

#構えの帰結

  • 同時に一つだけ維持。呪文準備中は他の[構え]を並行できない。「不動の陣」を維持しながら同時に「霊魂追放」を準備するのは不可能だ。術者は防御の構えと呪文の構えのいずれかを選ばねばならない
  • 移動不可。準備の構え中は区域を離れられない。敵が逃げれば射程内での発動が難しい。
  • 構えスロットを占める。長期間の分散呪文は構えスロットを長い時間占有するので、術者はその間ほかの構え的な集中を諦める。

#構えの余白 — 何ができるか

構えの維持中でも[型]の使用は許可される。これは単なるルール上の許容ではなく美学的決定だ — 「呪文を唱えながら刀を振るう」巫俗・密教の伝統。片手は印を結びながらもう片方の手は式神を操り、一つの口は真言を唱えながら別の技法は別に動く並行が許される。

密教僧が退魔呪文の準備の構えを維持したまま金剛杵で敵を打ち下ろす場面、陰陽師が結界呪文を積み上げる間に式神へ攻撃命令を下す場面 — これは構えと[型]の共存が生み出す戦場の重層性だ。

#集中は砕けることがある

本編にある構え解除効果は呪文の詠唱も自動的に妨げる。

  • 無防備状態は構えを解かせる → 準備中の呪文が消失。
  • 槍「牽制」のような区域進入反応 → 構えの維持が難しくなる。
  • 一部の奇襲・暗殺技法の無防備誘発 → 詠唱妨害。

新しい妨害規則は必要ない。構え解除効果は元々構えだったものを解かせ、準備も構えであるためともに解かれる。

#被弾と集中

ただし、すべての傷が集中を砕くわけではない。雑兵の外れた矢がかすめた傷で呪文が破られるなら、戦場の呪文など存在し得ない。本モジュールは次の原則を置く:

会心の被弾または2戦力以上の被害のみが集中抵抗判定を誘発する。それ以下の軽い傷は呪文を妨げない。

抵抗判定は 2d10 + 體 + 強健熟練 >= 10 + 破解戦力 (破解戦力 = 今回の攻撃が与えた戦力減少値)。強健熟練が高い術者は致命的な被弾でも集中を維持できる — これが体術に基づく修行者の優位だ。


#§ 法 — 脱尽の代償

(分散)呪文は本質的に長い時間を要する呪術だ。これを一間合の中に強制的に完成させることは物理的な時間を精神力で圧縮する行為であり、その代償は脱尽だ。

脱尽は次の間合の行動を事実上不可能にする — 術者は空になる。究極の呪文をただ一度に注ぎ込み、その直後に無力になる。

このメカニズムはキャンペーンのクライマックスの道具だ。ボス戦の最終間合、術者PCがすべてを賭けて9段呪文を一間合で発動 — この瞬間はゲーム内で稀であり、だからこそ強烈だ。

(準備)呪文には脱尽がない。一間合の中で二呼吸で詠唱しても拍を守る限り術者は次の間合で無事だ。


#§ 法 — 表記規約の要約

表記意味時間
N即発1呼吸
N+M(準備)呼吸分散1間合内2呼吸
N+M+K(準備)呼吸分散 (長い手順)1間合内3呼吸
N+M(分散)間合分散2間合
N+M+K(分散)間合分散 (長い時間)3間合
N+M(準備)+K(分散)混合2間合 (最初の間合2呼吸 + 次の間合で発動)

最後の数字は発動活力。それ以前の数字が準備段階の配分。

維持費用は表記ではなく効果本文に記述する。「炎の鞭 2+2(準備)」は詠唱費用のみを意味し、維持中に毎間合の活力消耗や使用時の増加費用は呪文説明に別途明示される。


#§ 法 — 段数別の基本活力

基本構造総活力解釈
1段22即発の基礎呪文
3段2+2(準備)4呼吸分散の基礎
5段3+3(準備)6中堅の手順型
7段4+4(準備) または 4+4(分散)8高位
9段5+5(準備) または 5+5(分散)10究極

個別の呪文は微調整可能。反応型の防御呪文は上位段でも即発が適しており、祭儀的な大呪文は低段でも(分散)表記と分散増加構造が適している。段数は効果・目標値の基準であって詠唱構造を絶対に強制しない。


#§ 法 — PCごとの選択 (技法 vs スペル)

本モジュールはPCごとの選択だ。一つのキャンペーンの中で陰陽師二人が各々異なるシステムを使える。

  • PC 1 陰陽師 — 本編の技法運用
  • PC 2 陰陽師 — 本モジュールのスペル運用

GMは両方とも処理する。一人のPCがキャンペーン中にシステムを変えるのは不可 (バランスの安全)。

一人のPCが両方を同時に使うことは禁止する。技法の自由とスペルの呼び出し力を一人がすべて持てばバランスが崩れる。

#推奨PC

  • 魔法使いのトーンのPC: 真言・呪文を唱える思想。定型化された力。
  • 計画・資源管理志向のPC: スロット追跡・呼吸分散の設計・脱尽管理。
  • 修行者の叙事のPC: 長い修練を通じて完成された呪文リスト。

#非推奨PC

  • 即興プレイのPC: スペル事前選択の負担。
  • 武道の叙事のPC: 技法の手の感覚のほうが合う。

#§ 法 — 19-mystical 流派との関係

本拡張の19神秘流派を保有するPCは:

  • 技法システム使用時: 流派免許・秘技マヌーバを活用 (本編 + 19流派)
  • スペルシステム使用時: 流派別スペルアクセス特典 (35-02 参照)

#§ アンチパターン

  • GMがPCのシステムを強制。PCの思想に反する。選択はプレイヤー固有。
  • 二つのシステムの任意変更。キャンペーン途中の転換は格差を生む。
  • 本編の技法PCの無視。スペルは「アップグレード」ではなく「異なる道」。
  • 構え準備の並行制限の解釈誤り。[型]は許される。他の[構え]・移動が制限される。

「剣士は一呼吸に一刀。術者は一呼吸に一印。二呼吸が積もって一呪文となり、その呪文は一間合を越える。呼吸は時間であり、構えは空間である。その両方を守るとき呪文は完成する。」