#獣・物・場所の妖魔
目次
ある妖魔は人に似ない。長く生きた獣、捨てられた道具、戻らぬ道、目の生えた家が、人よりも長く記憶する。
#導入掌編 - 蔵の主
蔵の戸は内側から閉じられていた。
主は鍵を持っており、錠は外にあった。それでも戸は開かなかった。内側からは器のぶつかる音、鎌を研ぐ音、機織りの動く音が聞こえた。
主の父は言った。
「あの蔵の物の半分はお前の母が使っていた物だ。捨てるとき礼をしなかったな。」
夜が更けると戸の隙間から古い箒が一本出てきた。箒の先には白い紙が結ばれていた。
そこには歪んだ字が書かれていた。
主が替わったなら挨拶をせねばならぬ。
#香 - 古き物は人を記憶する
獣・物・場所の妖魔は、人間が自らを中心と信じる世界を揺さぶる。猫が家を相続し、道具が主を品定めし、道が人を選んで送り出し、家が目を開ける。
この種の妖魔には恐怖と情が同居する。怖いが親しく、危ういが理不尽な目に遭っていることもある。仲間妖魔や長期NPCとして使いやすい。
#法 - 三筋の変種
| 筋 | 代表 | 欲望 | 解消 |
|---|---|---|---|
| 獣の妖魔 | 化け猫、狸、鎌鼬 | 真似、復讐、悪戯、縄張り | 餌・約束・正体の承認 |
| 物の妖魔 | 付喪神、目目連 | 記憶、使用、廃棄、所有 | 修理・祭礼・正当な継承 |
| 場所の妖魔 | 塗壁、道、家、井戸 | 境界、反復、保護、封鎖 | 名付け・道開き・禁忌の回復 |
#変種データ - 蔵の主
[蔵の主]
条件: 付喪神、目目連、化け猫、家型妖魔。
効果: 蔵・屋敷の中で潜入感知 +2。同じ場所の道具ギミック1つを小康段階に動かす。
代償: 火や大規模な破壊が生じると戦力 1 減少。
解消: 蔵の物の主を認め祭礼を行えば敵対解除が可能。
#代表スタット: 目覚めた蔵
#香
外から見ればただの古い蔵だ。苔むした土壁、歪んだ戸、色あせた名札。だが壁の節や割れた隙間が、ある瞬間に目のように人を追って動き、一度それに気づいた者は二度とその壁を空の壁として見ることができない。中に積まれた器や鎌や機織りは、主が手を触れずとも自ら位置を入れ替え、戸は鍵が外にあっても内側から閉じる。
音は夜に際立つ。器のぶつかる音、鎌を研ぐ音、機織りの行き交う音が、空の蔵の中から聞こえてくる。匂いは古びた埃と油、長く閉ざされて黴の生えた木の匂い。この存在は人を憎むより品定めする——捨てるとき礼をしたか、主が替わったとき挨拶をしたか。その算定が終わるまでは、戸の隙間から歪んだ字の書かれた紙一枚をまず差し出すだけで、なかなか自ら仕掛けてはこない。
目覚めた蔵 (開眼藏) - 将
戦力 5, 防備 14, 活力 8
勇+0, 技+1, 体+3, 知+2, 美+2
制圧力 +4
| 技法 | 種別 | 活力 | 判定 | 効果 | 限界 |
|---|---|---|---|---|---|
| 戸を噛む | [攻撃] | 2 | 2d10+体 >= 防備 | 1戦力。命中時 移動コスト +1活力 | - |
| 道具をぶちまける | [型] | 3 | 2d10+知 vs 対象 2d10+技 | 失敗した対象は装備一つを落とす | 呼吸1回 |
| 壁の目 | [構え] | 2 | - | 維持中、同じ建物内の敵の潜入判定 -2 | 構え維持 |
| 柱で踏ん張る | [技法] | 予約 2/即興 3 | 2d10+体 >= 敵の攻撃 | 被弾無効。破壊性の攻撃なら次の防備 -1 | - |
特殊: 家と一体 - 蔵の中心柱を浄化するか名札を貼り直せば制圧力 -2。
#追加変種パッケージ
獣・物・場所の妖魔は種類が多い。すべてを新スタットにするより、定本スタットに以下のパッケージを付けて別の顔を作る。
#鵺の夜鳴き
[鵺の夜鳴き]
条件: 鵺、複合獣妖魔、不吉な前兆。
効果: 初登場前の場面で、すべての感知判定の目標値 +1。戦闘の最初の間合に、鵺の最初の [型] 技法判定 +1。
代償: 鳴き声の方向を三度記録すれば、鵺の待ち伏せ効果は消える。
解消: 鳴き声が聞こえた屋根、木、井戸のうち、実際に門となった場所を見つければ制圧力 -1。
鵺は単なる怪獣よりも、「何が起ころうとしているのか」という予告として使えば強い。攻撃の前に、病、凶作、宮廷の不安、山獣の失踪をまず見せる。
#水路の使者
海坊主、船幽霊、河童、竜宮の使者、アヤカシを同じ川・海の事件にまとめる水系パッケージだ。
[水路の使者]
条件: 川、海、港、渡し場、船舶の戦場。
効果: 水中または濡れた区域で水系妖魔の移動コスト -1活力。船舶・橋・渡し舟を掴む判定 +1。
代償: 乾いた地で2間合以上戦えば制圧力 -1。
解消: 水路の主に捧げるべき名や供物を返せば、敵対が終わることがある。
アヤカシは単独の敵よりも水面の徴候として良い。遠くに見える黒い帯、船底を掻く手、誤って動く潮で戦場を変える。
#夜の客
ろくろ首、化け猫、狸、山姥のように、人間の家や食卓に入り込む妖魔のパッケージだ。
[夜の客]
条件: 民家、旅籠、山小屋、遊郭、商家。
効果: 最初の場面では人間のように振る舞う。感知目標値 13 に失敗すると正体を特定できない。
代償: 決められた食事、寝床、挨拶の作法のうち一つでも間違えば本性が現れる。
解消: 客として迎えるか、侵入者として追うかを明確に決めれば、妖魔の規則も固定される。
ろくろ首は「首が伸びる怪物」よりも、夜の街と寝床の監視者として扱うと良い。どこまで見ていたのかが恐怖の核心だ。
#蜘蛛窟の狩り隊
蜘蛛、毒蜘蛛狩人、地下蔵型妖魔に付ける。
[蜘蛛窟の狩り隊]
条件: 森、地下、天井の低い蔵、廃坑。
効果: 最初の捕縛または移動不能効果の目標値 +1。同じ区域に毒区域があれば、攻撃命中時、対象の次の移動コスト +1活力。
代償: 火、煙、大きな鐘の音のうち一つが使われると、次の間合の間、捕縛判定 -1。
解消: 蜘蛛の巣の中心の結を断てば、毒蜘蛛狩人分隊の結束力 -1。
#人間の共犯
山賊の頭のように妖魔ではないが、妖魔の事件を人間社会とつなぐ敵に付ける。
[人間の共犯]
条件: 山賊の頭、腐敗役人、取引商、邪教集団。
効果: 妖魔の弱点や餌の経路を一つ知っている。交渉で得られるが、脅しだけでは話さない。
代償: 共犯が戦闘不能になると、妖魔の組織は次の場面で計画を変える。
解消: 共犯の利益構造を断てば、妖魔の事件の人間の保護膜が消える。
人間の共犯は妖魔より弱くても事件を長く引きずらせる。妖魔を倒す戦闘と、人間の共犯を暴く調査を分ければ、物語が引き締まる。
#霊界の門
物と場所の妖魔にとって、門は長く反復された使用の痕跡だ。毎日開け閉めした戸、百年使われた器、誰も直さなかった蔵、皆が通るが誰も祭らない峠が門となる。
門を閉じる方法は破壊よりも関係の整理が多い。直し、磨き、返し、名を付け、捨てるときに礼を尽くせば、門は小さくなる。
#ファクション対応
| 勢力 | 対応 |
|---|---|
| カグラ藩 | 場所の妖魔を通行妨害と治安問題と見る。速やかな除去を好む。 |
| 比叡連 | 物の業と場所の怨みを浄化する。 |
| エンリョ館 | 物の記憶を資料とする。時には妖魔の権利を主張する。 |
| 尾羽山 | 化け猫・狸と古くからの交流がある。 |
| 堺座 | 古い物の取引で事件を作りもし、解決もする。 |
| 国友座 | 物の妖魔を機械と結びつけようとする誘惑に陥りやすい。 |
#運用 - 親しいが危険な妖魔
この系統は「いつ出てきても嬉しい」脇役の悪役や、仲間候補として良い。ただし、可愛くするだけでは妖魔性が消える。必ず禁忌一つと被害の様相一つを維持する。
例: 喋る化け猫は愉快であり得る。しかし、主を飢えさせた者の飯椀を夜ごとに割るという規則があってこそ、妖魔として残る。
#締めの言葉
古き物は言葉を発さないのではない。人があまりに遅く聞き始めるだけだ。

