#正体性セット総論 (正體性 總論)
目次
権威。 本文書は変形規則(Variant)である。本巻のすべての変形規則がそうであるようにGM許可を前提とし、fcは
co正典(Canon)を覆せない。正体性セットは正典現代人の職業を変える規則ではなく、その上に重ねる出自の規則である。本文書が確定する共通枠と文書様式を、02シリーズのセット6種すべてが従う。
#香 — お前は何をしていた者だったか
#導入断片 — 手が覚えている仕事
峠の関門に雨が落ち始めた。
「次。」槍を握った関守が手招きした。女が前へ進み出た。奇妙な装いだった —— 見たことのない布で仕立てた衣、背には色褪せた背嚢が一つ。列の後ろで誰かがささやいた。神隠しだ。神霊が隠して戻した者だ。
「どの家門の者か。」
「家門は……ありません。」
「故郷は。」
「申し上げても、おわかりにならないでしょう。」
槍先が半寸上がった。関守は目を細めた。「ならば問いを変えよう。—— お前は何をしていた者か。」
女が口を開く前に、列の後ろで悲鳴が上がった。荷馬が驚いて暴れ、馬子が車輪に足首を轢かれたまま泥濘に引きずられた。人々は囲んでざわめくばかりだった。
女は考える前に動いた。背嚢を泥濘に投げ捨て、轢かれた脚を診て、自分の腰紐を解いて膝の上を縛り締めた。「そこの、あなた!肩を押さえて。動けないように。あなたは真っ直ぐな板を —— 背負子の支え棒でも!」命令が雨脚の間を飛び、不思議なことに、人々はその言葉に従った。
馬子の悲鳴が呻きに、呻きが荒い息に鎮まると、関守が近づいてその光景を見下ろした。
「……医者か。」
「看護師です。」女が言った。通じない言葉だとはわかっていた。
関守はその聞き慣れぬ言葉をしばし噛みしめ、槍を収めた。「何であるかはわからぬが —— 何をしていた者かはわかった。通れ。」
#香 — 出自は場面を作る
この時代は名より先に職分を問う。武家の者か、寺の者か、田の者か。神隠しされた者はその問いの前に家門も故郷も差し出すものがない —— 差し出せるものはただ一つ、何をしていた手かだけである。
正典現代人は「未来から来た者」という一つの答えを与える。正体性セットはその答えを割る。未来から来た軍人、未来から来た看護師、未来から来た教師。セットはシートの上の一行ではなく、場面を作る出自である —— 関門で槍を収めさせ、戦場で「なぜお前は刀の代わりにそれを取ったのか」を決める。
そして本巻の背骨はここでも撓まない。この書は現代人を強くする書ではない。消耗してゆく未来のドラマを与える書だ。 セットは強くなる道ではなく、何を失いうるかの目録である。何をしていた者だったかが定まる瞬間 —— 何が摩り減って消えるとき最も痛むかも定まる。
#法 1 — セットの構成5要素
正体性セットは正典現代人の職業の上に重ねる前職パッケージである。職業を変えず、段数を足さず、スロットを増やさない。すべてのセットは以下の五要素のみで成る —— ここで確定する。02シリーズのセット6種すべてがこの枠に従う。
| # | 要素 | 何をするか |
|---|---|---|
| 1 | 開始機能調整 | 正典の開始自動機能の一部をセット機能に置換 |
| 2 | セット特技 | 1段・3段スロットに正典特技と択一する専用特技 |
| 3 | 開始漂流物 | セット別の所持品束 —— [消尽]含む、背嚢一つ原則 |
| 4 | 葛藤フック | 正典の三道六心の葛藤をセットの視点で具体化した1~2個 |
| 5 | 適応変形 | 適応メカニックのセット別の色 —— 速い道一つ、塞がれた道一つ |
#要素 1 — 開始機能調整
正典現代人の開始自動機能は四つ —— 策謀習得、医術入門、交渉入門、感知入門。セットはこのうち1~2個をセットが指定した機能に置換する。
- 等級保存。 入門の枠は入門に、習得の枠は習得に変わる。置換は機能点数を一点も増やさない。
- 免許上限。 セット置換で得た機能(例:自衛官セットの弓術(銃器限定)—— 火器・鉄砲には通じるが弓には通じない弓術)は免許(3)までしか上がらない。ただし置換結果が正典の名人可能目録(策謀・医術・交渉・感知・虚言・生存)の機能であれば(例:医療人の医術)天井は正典に従う —— 名人の門は正典がすでに開けてあるからだ。正典の名人可能目録は不変である —— セットはこの目録に一つの機能も加えられない。名人の門は正典のみが開く。
前職の技術は渡ってきたその日が頂点だ。この時代にはその技術の師も、教本も、仲間もいない —— 免許の彼方へ行く道は、この時代の技芸にのみある。
#要素 2 — セット特技
各セットは1段・3段スロット専用特技を合わせて1~2種提供する(スロットあたり最大1種)。5段以上のセット特技は存在しない —— 5段からはどのセットであれ正典現代人の特技目録に合流する。前職の色は3段で終わり、その上はこの時代で過ごした時間の領域である。
- 択一であり、追加ではない。 セット1段特技を選べば正典1段特技の先見の明を、セット3段特技を選べば正典3段択一(分隊指揮・活力注入・現場探索)を放棄する。スロット数は増えない —— パワーインフレはこの一行が止める。
- 1段置換が職業の骨格(活力譲渡・能力値特殊)に触れられない理由は、法 2の正典保護原則で定める。
#要素 3 — 開始漂流物
セット別の所持品束。二つの原則が全セットを束ねる。
- 背嚢一つ原則。 身に着けて渡ってこられるものだけ。車両と重火器はPCの開始漂流物にはなれない —— それはGM専用のシナリオ小道具である(車両参照)。
- [消尽]との連動。 漂流物の束には消尽システムの[消尽]タグが付く品目が必ず含まれる。各品目は01-02 法 4のデータカード標準様式に従う —— 一握りの物語と沈黙後の価値の欄なしにはカードではない。03シリーズにすでに載ったカードは引用し、セット固有の品目のみセット文書に新たに記す。
開始残量はカード既定値に従うが、01-02の§運用ダイヤルがその値を調整する。
#要素 4 — 葛藤フック
正典現代人の三道六心の葛藤目録 —— 忠か自由か、身分制と平等、戦争の意味、妖魔との共存、帰るか残るか —— をセットの視点で具体化した1~2個。
セットは新たな葛藤軸を作れない。レンズだけを変える。医療人にとって「身分制と平等」は、先に来た患者と身分の高い患者のどちらを先に生かすかの問題となり、自衛官にとって「戦争の意味」は、引き金一度がすなわち残弾一発という勘定となる。
#要素 5 — 適応変形
適応メカニックの正典規則 —— スロット転換、借用範囲、頻度変換原則 —— はすべてそのままだ。セットはその上に二行の色だけを塗る。
- 速い道。 セットが指定した公式職業1個。その職業から借用する最初の特技から同職業免除を適用する(正典は2個目から)。看護師は医僧の手さばきを一日で読む。
- 塞がれた道。 セットが指定した領域1個。その領域の借用には免除規則が適用されない —— 活力ペナルティが最後まで残る。人を生かしていた手は、人を斬る術に最後まで不慣れだ。
何に速く適応し何に最後まで適応できないか —— それがセットの最も深い正体性である。
#法 2 — 運用規則
#基本運用
- セットはキャラクターあたり1個。キャラクター作成時のみ選択し、途中の変更・追加は不可。
- GM許可必須。 セット一つ一つが別個の許可単位である —— 自衛官だけを止めて残りを開く卓も正当だ。
- セットはあくまで選択肢である。セットなしの正典現代人はそれ自体で完全であり、同じ卓にセット使用者と未使用者が混じっても何の問題もない。
#正典保護原則
セットを使っても現代人の本質は不変である。明文化する。
- 非戦闘支援、活力譲渡、三道六心転換トリガー2回 —— この三つはどのセットも除去も弱化も迂回もできない。
- セット1段特技が先見の明と択一される場合でも、活力譲渡(2活力消耗 → 対象に2活力伝達)と能力値特殊(勇/技/體 -1、智/美/運 +1)は特技の効果ではなく職業の骨格と見なして維持される。セット特技が持っていくのは知識の色 —— 歴史知識、応急医学、未来の言語 —— であって、骨格ではない。
- 直接戦闘力を与えるセットは自衛官一つだけである。 そしてその戦闘力は火器と[消尽]に縛られた時限付きだ —— 銃が沈黙する日、自衛官も正典現代人に戻る。残り五セットはいかなる形でも攻撃判定にボーナスを足さない。
#背景との併用
セットは背景ではない —— 背景1個を選ぶ正典の権利はそのまま残る。特に現代人専用背景現代の記憶との併用を許可する。セットが「何をしていた者か」なら、背景は「その仕事が彼に何を残したか」だ。
ただし同じ出自を二度数えない。規則は一行だ。
セットが置換で与えた機能と、背景の機能特典が同じ機能を指す場合、その背景特典は特典目録の残りの機能へ強制移動する。
#ex2代替特技との互換
まず自足を宣言する。本巻はex2なしで完結する。 以下の表はex2-01-03 現代人代替特技を併用する卓のみのための交通整理であり、ex2のない卓はこの節が丸ごとないものと見なしても規則に空席は生じない。
原則は一つ —— 一スロット、一源。同じスロットに二つの源の特技を重ねて積めない。択一はキャラクター単位ではなくスロット単位である —— GMが両方を許可したなら、1段はセットから3段はex2から選ぶ組み合わせも成立する。
| スロット | 競合する選択肢 | 規則 |
|---|---|---|
| 1段 | 正典の先見の明 / セット1段特技 / ex2代替特技(現代数学) | 三つのうち一つだけ。正典保護原則(活力譲渡・能力値特殊の維持)はどちらを選んでも適用 |
| 3段 | 正典3段択一 / セット3段特技 / ex2代替特技(写真記憶) | 三つのうち一つだけ |
| 5・7・9段 | 正典択一 / ex2代替特技 | セットは関与しない —— 正典とex2の規則そのまま |
効果の解釈が衝突したら狭い側が勝つ —— 正典の文言が基準であり、セットはその上の変形であり、ex2代替特技は最後に重ねる。
#法 3 — セット文書共通様式
02シリーズのすべてのセット文書は以下の五節を備える。ここで確定する —— セット6種すべてがこの様式に従う。(消尽システム法 4がカードの様式を確定したように、本節はセット文書の様式を確定する。)
| 節 | 内容 | 規約 |
|---|---|---|
| §香 | 誰だったか + 漂流の最初の場面の断片 | 断片には台詞と場面の動きが入る |
| §セットデータ | 5要素表 —— 法 1の枠そのまま | 機能調整・特技(1・3段)・漂流物・葛藤フック・適応変形以外の項目を禁止 |
| §時代との摩擦 | このセットが戦国でぶつかる地点 | 身分・礼法・技術・信仰 —— 摩擦はペナルティではなく場面の材料 |
| §成長曲線 | 適応段階別の変化 | 前職・二重ビルドを開かない(正典択一原則)。適応が加速した果てが「事実上の新職業」のように見えるのは叙事であってデータではない |
| §卓フック | シナリオの種2~3個 | GMがその場で取って使える大きさで |
この様式に従う六文書は次の通りである。執筆と検証の順序上、自衛官が最初のセットであり、バランスの試金石である。
| セット | 文書 | 前職 |
|---|---|---|
| 自衛官 | fc10-02-02 | 戦闘派遣型 / 災害派遣型(Variant中のVariant) |
| 救難職 | fc10-02-03 | 警察・消防・救急 |
| 医療人 | fc10-02-04 | 医師・看護師・薬剤師 |
| 学者・教師 | fc10-02-05 | 研究者・教員 |
| 技術者 | fc10-02-06 | 整備士・電気工・建築技術者 |
| 一般人・学生 | fc10-02-07 | 会社員・学生 —— 何者でもなかった者のセット |
セット別のサンプルキャラクター6人と共通の導入断片は付録に置く。
#七番目のセット — GM自作ガイド
六セットの外の前職 —— 料理人、運動選手、農業人、俳優 —— が卓に来たら、GMは自らセットを作れる。五要素をすべて満たし、一つも足すな。機能置換は1~2個に免許上限、特技は1段・3段に正典と択一でのみ、漂流物は背嚢一つに[消尽]品目を含み、葛藤フックは正典目録の具体化でのみ、適応は速い道一つに塞がれた道一つ。そして二つの試金石に当ててみよ —— このセットが自衛官より強ければ捨てろ。このセットが攻撃判定にボーナスを与えるなら作り直せ。 最後に法 3の五節様式に合わせて一枚で記せば、それが貴方の卓の七番目のセットである。
関守は名を問わなかった。何をしていた手かを問うた —— セットはその問いに対する、神隠しの答えである。
