#漂流貴物
目次
権威。 本文書の見本カード数値は狭いCanon —— 本巻の中でのみ正典であり、正典の貴物分類(名品総覧・異国神物)のどの枠も覆わず、どの枠も新たに作らない。§法 3 自作ガイドはScene Tool。本巻のすべての内容がそうであるようにGM許可を前提とし、fcは
co正典(Canon)を覆せない。そして本文書は本巻の最後の橋だ —— この本は現代人を強くする本ではない。消耗してゆく未来のドラマを与える本だ。そのドラマが最後まで消耗された後に何が残るか —— 消尽の果てが消滅ではなく物語だということを、ここで示す。
#香 — 物は時間を記憶する
#導入断片 — 墓辺の火
陰陽師は日が沈む前に墓辺に着いた。
封墳というには小さな、石一つを載せた土の盛りだった。五年前に死んだ神隠しされた者の墓だという。その石に —— 棒の形をした物が立てかけられていた。
「夜ごとあれが点くのです。」村長が遠巻きに言った。「鬼火ですよ。坊さんは手を振って退き、山伏は三日祈祷をしても消せませんでした。斬るなり焼くなり、終わりにしてください。」
陰陽師は物を拾い上げた。鉄でもなく漆でもない、触れたことのない滑らかさだった。振ると中で死んだ金属音がからからと鳴った。
日が沈んだ。
物の頭が —— 音もなく —— 点いた。灯籠を百集めたような真っ直ぐな光が、峠の方の闇を長く裂いた。村長が息を呑んで退いた。
「妖物ですよ。」村長が囁いた。「百年経った物に霊が宿ると言うではありませんか。だがあれは来てまだ五年、それがいっそう恐ろしいのです。一体どれほど毒々しいものが宿ったのか。」
陰陽師は答えず光を覗き込んだ。しばらく見た。そして光が指す方を見た —— 死んだ者が生きて夜ごと眺めていたという、あの峠を。
「百年という算え方は、」陰陽師が口を開いた。「閉じた時代の算えだ。門が開いて以来は —— 歳月は年数で流れぬ。」
「では… 何で流れるのですか。」
「心でだ。」陰陽師は物を墓の傍らに立て戻した。光は揺らぎなく峠を照らしていた。「これは五年経った物ではなく、五年分の待ちだ。斬って終わるものではなく —— 届いて終わるものだ。」
「では退魔は…」
「退魔ではなく道案内が要る。」陰陽師は峠の方へ歩を進めた。「あの光が待つものが何か、向こうに行って見てこよう。餅でも一皿供えておきなさい —— 祀れば神になるものたちだ。」
#香 — 歳月の算え方
古い伝承は算えが明らかだ。百年経った道具には霊が宿る —— 付喪神の算え方だ。百年分の手垢、百年分の使われ、百年分の忘れられが積もって、物はようやく目を開く。
しかしその伝承を記した同じ本が、次の行にこう記した —— 霊界が開いて以来、妖魔の数が増えた。捨てられた物が付喪神になる。この時代は妖魔が最も多い時代だ(妖魔とは何か)。ゆえに本文書は冒頭で宣言する。霊界が開いた時代には歳月の算え方が違う。 百年は閉じた時代の算えだ。開いた時代の歳月は年数で流れず —— 心の濃度で流れる。百年を無心に転がった臼よりも、五年を一つの心で留まった懐中電灯が先に目覚める。
そして神隠しされた者の物より心が濃く染みる物が、この時代に他にあるか。それは帰れぬ時代の最後の欠片であり、死んだ家族の最後の声であり、遂に引かなかった引き金だ。四百年分の恋しさを一身に受ける物 —— 濃度なら、初めから限界まで満ちている。
正典はこういう物の名をすでに作ってあった。霊界鬼物(靈界鬼物) —— 時間を逸脱して漂う物(名品総覧)。正典の霊界鬼物が霊界から流れ出た刀であるなら、漂流貴物はその道の逆方向だ。未来から来て、人と共にこの時代を生き、この時代で古び、消尽を終えて —— その沈黙の上に心が溜まって妖力を帯びたもの。03シリーズのカードたちが「沈黙後の価値」欄に記しておいた付喪神の候補という言葉、車両が「鉄の祠に本当に何かが宿る日の物語はそちらが引き受ける」と渡した約束 —— その末の欄がすべてこの文書だ。
百年後を想像してみよ。戦国が終わり太平の時代が来ているなら —— ある宝物庫の鑑定帳に「出所不明、自ら光を放つ灯(燈)」という行が記されているだろう。その時代の怪談家たちはそれをありふれた付喪神として算えるだろう。その灯がどの時代から来たかは、誰も問わぬまま。神隠しは消耗されて消えるが —— 物は残って、物語になる。
#法 1 — 漂流貴物の場と読み方
#新規分類ではない
漂流貴物は新分類ではなく正典 霊界鬼物の下位事例だ。「時代的にこの時代に存在し得ない物」という定義をそのまま満たし、霊界鬼物のロア規則四つもそのまま受ける。
- 主人選択 —— ただし見る心が違う。正典の刀が殺意と義を見たなら、漂流貴物は恋しさと所以を見る。それが各カードの「縁条件」欄だ。
- 霊的痕跡 —— 陰陽師と感知の名人は漂流貴物から弱い妖気または神気を読む。墓辺の陰陽師が祈祷の代わりに道を発ったのは、その痕跡の質が怨みではなかったからだ。
- 紛失危険 —— 縁が尽きれば物は手を離れる。霊界に帰る代わりに —— 己の物語の果てへ行く(各カードの「沈黙後の価値」欄)。
- 時間亀裂 —— 漂流貴物も霊界鬼物の数に算えられる。一所に三つ以上集まれば、その所の門が揺らぐ。正典そのままのシナリオフックだ。
ゲームルール上の場も新たに作らない。装備スロットと入手原則は名品と同じだ —— シナリオ報酬・遺産・戦利品。購入不可。 そして開始漂流物にはなれない —— 神隠しの背嚢に入っているのは、まだ心の溜まっていない、生きている物だけだ(漂流の原理)。
#貴物と妖魔の境界
沈黙した物が歳月と心を含むと道が二筋に分かれる。
| 筋 | 定義 | データの場 |
|---|---|---|
| 漂流貴物 | 己の意志はあれど、聞かれ使われる物として残ったもの | 本文書 —— 貴物文法 |
| 付喪神 | 己の体で歩き、飛び、打ち始めた妖魔 | 正典 付喪神 + 事物・場所の妖魔の変形 |
境界は一行だ。持てる間は貴物であり、歩み出れば妖魔だ。 一人で点く懐中電灯は貴物だ —— 光が勝手なだけで、手の中にある。その懐中電灯が真夜中に自ら転がり回り人を惑わし始めれば、その日からそれは本文書のカードではなく正典のスタットブロックだ。fcはそのブロックを書き直さない。
#カードの読み方 —— 七欄と二欄
カードは消尽システム法 4の七欄標準様式に二欄を加えて従う —— 本文書限定の追加欄であり、文法は名刀器補充巻から借りた。縁条件欄は武器と主人の関係の所有条件文法を、祟りの余地欄は呪い・祝福・献身の呪い設計原則を借用する。そちらの第1原則も共に来る —— 呪いはペナルティではなく選択のメカニックだ。 祟りはPCを罰する罠ではなく、PCが何を受け何を与えるか選ぶ取引だ。
標準欄二つは本文書で質が変わる。
- [消尽] —— おおむねなしだ。これらの物は消尽の果てをすでに過ぎてきた。電池は死に、燃料は涸れ、それでも動く —— 単位があるべき場に、代わりに所以が記される。
- 劣化特則 —— 共通特則一つで代える。漂流貴物は劣化4段階を受けず、整備が効かず、整備が必要でもない。 壊すことは可能だ —— 原形を破壊すれば宿ったものが散る(戦力算え無視、正典付喪神の弱点と同じ質)。ただし散った心がどこへ行くかは、GMがその場で答えるべき問いになる。
- 沈黙後の価値 —— すでに沈黙の彼方にある物なので、この欄は「心が解けた後」として読む。縁が果てを迎え妖力が眠る日、何が残るか。
#法 2 — 見本漂流貴物六点
六点すべてがシナリオ報酬だ。五点目 —— 鉄の祠 —— だけはカードすら GM 専用だ。各カードの前の由来談は飾りではなくデータの半分だ —— 縁条件と祟りはすべてその数文から出る。
#鬼火懐中電燈
主人は初冬を越せなかった神隠しだった。山小屋で彼は夜ごと懐中電灯を点けて峠の方を照らした —— 同じ夜に散り散りになった同行が、その光を見て訪ねて来ると信じたからだ。電池はその年の秋に死に、主人はその年の冬に死んだ。春に山を下りたのは懐中電灯一つ —— そしてそれ以来これは、夜道の人が危ういたびに一人で点く。村はそれを鬼火と呼んで恐れたが、その光を辿って生きて帰った者がもう三人だ。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 名称 | 鬼火懐中電燈 |
| 分類 | 漂流貴物 |
| 効果 | 点いている間懐中電灯の効果そのまま —— 夜間・暗所で自己区域と隣接区域の視界確保、自己区域の闇ペナルティ無視。ただしスイッチは効かない —— 点け消しはこの物の意志だ。夜・暗所で所持者の一行に見えない危険(伏兵、妖魔、崩れる道)が迫れば場面につき1回、GMは点灯を宣言する —— 危険があるという事実だけ知らせる。方向も、正体も知らせない。そして点いた光は隠せない —— その瞬間一行の潜入は終わる。 |
| [消尽] | なし —— 電池はとうに死んだ。この光は発数でも時計でも燃えない。待ちで燃える。 |
| 劣化特則 | 共通特則そのまま —— 劣化なし、原形(レンズと鏡面)破壊時に宿ったものが散る。 |
| 縁条件 | 闇の中で誰かを待ったことのある者。縁が結ばれる前でも持ち歩くことはできるが、火はその手のために点かない。 |
| 祟りの余地 | 点いた火を布で覆うか置いて去れば、その夜一行の誰かが道に迷う —— GMは次の移動場面に道迷いを宣言できる。光は警告であり、警告を消す値は常に闇だ。覆うか、見つかるか —— 選ぶのはPLだ。 |
| 一握りの物語 | 取っ手に油性ペンで書いた字が半ば消えている —— 「…が見えたら、こっちへ」。冒頭の名は遂に読めない。 |
| 沈黙後の価値 | 待っていた者が —— あるいはその血筋が —— この光の下に無事に届く日、火は再び点かない。残るのはレンズと鏡面(職人に威勢品一握りの値)、そして鬼火が人を生かした峠の物語一つ。 |
#納声牌
主人は毎月十五夜になると裏山に登り、死んだ画面に向かってしばらく話していた神隠しだった。電源は渡ってきた二月目に切れた。主人が客死した後遺品を収めていた僧が肝をつぶした —— 十五夜、黒い牌が一人で白く浮かび上がり、幼い子の声で「いつ来るの?」と問うたからだ。それ以来月に一度、十五夜にだけ、牌は保存された声を順に再生する。同じ言葉を、同じ順で —— 四百年外の家族が遺した、不在の言葉たちを。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 名称 | 納声牌 |
| 分類 | 漂流貴物 |
| 効果 | 十五夜にだけ目覚める —— 一場面、保存された声を再生する。同じ区域でそれを聞いた神隠しされた者は次の十五夜まで精神耐性に+2 —— 帰る所以を持つ心は折れにくい。GMへ:録音と写真の中には一キャンペーン分の手がかりと未練が眠っている。帰還キャンペーンの情緒装置として扱う法はGMガイドに任せる。まだ生きているスマートフォンのカードは電子機器にある —— これはそのカードが死んだ後の物語だ。 |
| [消尽] | なし —— 充電口が受けるのはもはや雷ではなく十五夜の月だ。 |
| 劣化特則 | 共通特則そのまま。罅の入った画面を替える部品はこの時代になく —— 必要でもない。 |
| 縁条件 | 帰ろうという言葉を声に出して言ったことのある者。その言葉を一度も口に出さなかった手の上では、十五夜が来ても画面が点かない。 |
| 祟りの余地 | ある十五夜、牌が保存されたことのない言葉を言う —— 「そこ、誰かいますか?」。答えるのは自由だ。ただし答えた者は次の十五夜までこの牌を己の手で他人に渡せなくなる —— 対話を断つ側が自分になることが、堪え難いほど恐ろしくなる。牌の向こうに本当に誰かいるかは、本文書が定めない。 |
| 一握りの物語 | ロック画面は海の写真だ。波の前に立つ三人のうち、一人の顔の上にだけ罅が入っている。 |
| 沈黙後の価値 | その声が聞かれるべき耳に —— どの時代の耳であれ —— 遂に届く日、牌はもう目覚めない。南蛮鏡より滑らかな黒い板を陰陽寮は「月を閉じ込める鏡」と呼んで欲しがる。 |
#不錆手術刀
主人は往診鞄一つで渡ってきた医療人 —— この時代で二十年余計に斬り縫った神隠しだった。砥石に当てたことがないのに刃が死なず、ある年からかこの刀で斬った所は膿まなくなった。名医が死んだ日弟子たちが遺品を分けたが、刀だけは箱の底に貼り付いて誰の手にも落ちなかった。三日空のまま置いた後、生涯師の手を拭いてきた末弟子が掴むと —— 素直に従ってきた。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 名称 | 不錆手術刀 |
| 分類 | 漂流貴物 |
| 効果 | この刀で行う処置・手術判定+1。そしてこの刀で入れた切開・処置の傷は膿まない —— 感染悪化が起こらない(医療人セットの処置文法の上に乗せる一行)。武器として握れば懐剣と同じく扱う —— 1戦力、同じ区域。ただしその前に、下の祟りを読め。 |
| [消尽] | なし —— 滅菌包装の時代は終わったのに、刃はまだその時代を覚えている。 |
| 劣化特則 | 共通特則そのまま —— 錆びず、鈍らず、研がれもしない。 |
| 縁条件 | 生かすために刀を当てた逸話が一つ以上ある者。医術技能の保有の有無は見ない —— この刀は手ではなく所以を見る。 |
| 祟りの余地 | 殺意で振るうことはできる —— 刀は止めない。ただしその刃で斬った傷は膿まない代わりに癒えもしない —— 斬られた者の体に永遠に乾かぬ一行として残る。そして刀は次の十五夜まで医術のボーナスを閉じる。生かす刀で害するのは選択だ。値を払うのは選択ではない。 |
| 一握りの物語 | 刃の下に小さな製造番号が刻まれている。最初の主人はそれを己が生かした人の数だと冗談を言っていた —— 二十年の間、その冗談は次第に冗談でなくなっていった。 |
| 沈黙後の価値 | 殺意に長く浸った刃はある日ただの鉄になる。しかし美しく老いて縁を全うした刃は医家(醫家)の宝になる —— 「膿まなかった刀」の物語と共に、医術一流派の信標として受け継がれる。 |
#帰路針
山を歩く者の磁石だった。主人は渡ってきた初年中ずっと北へ向かって歩いた —— 北へ行けば家のあった土地でも踏めると信じた。ある朝、針が北を捨てた。主人は怒り、泣き、結局針に従い —— 針が止まった所は北ではなく、同じ夜に散り散りになった同行の山小屋の前だった。主人が老いて死んだ後も針は北へ戻らなかった。今もそれは、握った者が帰るべき所を指す。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 名称 | 帰路針 |
| 分類 | 漂流貴物 |
| 効果 | 一日1回、蓋を開ければ針が一方向を指し、半刻が過ぎれば眠る。指すのは北ではなく今の主人が帰るべき所 —— それがどこかは針が定め、針の腹はGMが定める。置いてきた仲間かもしれず、返さぬ約束かもしれず、開いて閉じた門かもしれない。針に従う旅の間、道を探す地理判定+2 —— 旅の文法は道と旅そのままだ。 |
| [消尽] | なし —— 磁針を動かしていた力が何だったかは、もはや重要でなくなった。 |
| 劣化特則 | 共通特則そのまま。硝子が割れても針は回る —— 針が折れる日だけが終わりだ。 |
| 縁条件 | 帰る所を一つ、心に定めた者。どこへも帰りたくない手のひらの上で針はひたすら巡るばかりだ。 |
| 祟りの余地 | 針が指す所が主人の行きたい所だという保証はどこにもない。三日を超えて針に逆らった旅でGMは場面につき1回道迷いを宣言できる —— 同じ峠、同じ岐れ道、同じ茶店。針は主人を罰しない。ただ帰るべき所を、過ぎ去らせすぎないだけだ。 |
| 一握りの物語 | 蓋の内側に小さな写真が挟まれていた跡が残っている。写真は最初の主人と共に葬られた。 |
| 沈黙後の価値 | 主人が遂に帰るべき所に届く日、針は静かに北へ戻る。その日からはただの良い磁石だ —— それだけでも航海の名人たちは南蛮天空盤と並ぶ値を呼ぶ。 |
#千人鉄祠 — GM専用
乗客を乗せたまま丸ごと隠された夜間バスがあった。燃料の尽きた車体は大きな街道が切れる村の入口に止まり、乗客はそれぞれの物語の中へ散り、鉄塊だけが残った。初めは雨を凌ぐ屋根であり、次は旅人の寝床であり、ある凶作の年には村の子らがその中で冬を越した。その冬の後から村は壇を築いて餅を供え始めた —— 車内で寝る人は悪い夢を見ないということを、皆が知るようになったからだ。走っていた頃乗せた客と、止まった後に抱いた客を合わせれば、千人を超えて久しい。
GMへ。 この車を本巻見本キャラクターたちが乗って渡ってきたあの夜間バスに結べば、キャンペーンの始点がそのまま聖所になる —— 結ばなくてもよい。車両の遺跡化文法が約束した「鉄の祠に何かが宿る日」が、まさにこのカードだ。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 名称 | 千人鉄祠 |
| 分類 | 漂流貴物 (GM専用) |
| 効果 | 持てない —— これは装備ではなく場所だ。区域配置は車両の遺跡化文法そのまま —— 車体周りは外郭、荷台・客室は後列、運転席は狭い心府。その上に神域の質が乗る:車内にいる間精神耐性+2、車内で幕間を過ごした者は悪夢と惑わしの残りを洗う。下級妖魔は招きなしに車内へ入れない。そして十五夜になれば前照灯が二度、ゆっくり瞬く —— 車体を拭いてくれた手への、この物なりの挨拶だ。 |
| [消尽] | なし —— 燃料時計も変質時計も皆回りきった。二つの時計が止まった所で、三つ目の算えが始まった。 |
| 劣化特則 | 共通特則そのまま。車体を剥がし壊すことは可能だ —— その瞬間下の祟りが目覚める。 |
| 縁条件 | 個人ではなく村と結ぶ縁だ。祭礼に一度参列し車体を己の手で拭いた者は「乗せた客」とみなす —— 客だけが上の保護を受ける。 |
| 祟りの余地 | 祭礼が絶えるか車体が剥がされ売られ始めれば、宿ったものが目覚める。目覚めたそれはもはや貴物ではなく妖魔だ —— 正典 付喪神データに場所の妖魔の変形を乗せて転がせ。祀れば神であり、祀らねば妖魔だ(妖魔とは何か) —— 人に作動していたその境界が、鉄にも同じく作動する。 |
| 一握りの物語 | 行先表示板にはまだ終点の名が浮かんでいる —— この時代の誰も読めない地名だ。村人たちはそれをあの世の地名と信じ、通るたびに二度礼をする。 |
| 沈黙後の価値 | すでに沈黙の彼方で二度目の生を生きる物だ —— このカード全体がすなわち沈黙後の価値だ。百年後この村の名には祠の字が入っているだろうし、その頃の祭りには「雷真似踊り」が残っているだろう。 |
#最後一発
主人は災害派遣から渡ってきた自衛官だった —— 背嚢の実弾は十発に満たなかった。九発は初年の道の上で尽きた。十発目は —— ある夜、降伏して伏した野伏の額の前で —— 遂に撃たなかった。彼はその一発を薬室から抜いて生涯懐に入れて持ち歩き、死にながら傍らの同行に握らせて言った。「撃つことがないよう願う。撃つことがあれば —— 所以からまず持て。」
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 名称 | 最後一発 |
| 分類 | 漂流貴物 |
| 効果 | 弾丸一発。どの現代火器にも嵌まる —— 弾種の境界は生きた弾の法であり、この弾はその法の外にある。撃てば:判定なしに命中 —— 2戦力、[貫通全体]。ただし、発射されるのは守るための引き金のときだけ。殺意で引けば撃針が空回りする —— 弾は消尽されず、不発の沈黙が一呼吸を食う。何が守りで何が殺意か —— その算えはGMのものではなく引き金を握った手の三道六心がする。GMは引く前に一度だけ問え。「誰のために撃つか。」 |
| [消尽] | [消尽 1・発数] —— 本文書で唯一[消尽]が生きているカード。減る方向しかないのではなく、減る場が唯一一つだけだ。 |
| 劣化特則 | 受けない —— 四百年を含んでも雷管は生きている。ただし、この弾から雷管を抜き出して再装填の夢に使おうとする試みは必ず失敗する。心は部品ではない。 |
| 縁条件 | 引き金の前で止まったことのある者 —— 撃てたのに、撃たなかった逸話を持つ者。その逸話のない手にこれはただの小銃弾一発だ —— 弾種も選び、奇跡も閉じる。 |
| 祟りの余地 | この弾の祟りは撃った後ではなく撃つ前に来る。懐に入れている間、撃てたすべての場面が心の算えに残る —— あのとき撃っていたら。遂に撃たず次の手に渡すのも道だ。そのときこの弾は一発そのまま、逸話一つを上に乗せて重くなったまま行く。 |
| 一握りの物語 | 薬莢の底に針の先で刻んだ二文字がある —— 「最後」。刻んだ手は震えていたらしい。画が二度、滑っている。 |
| 沈黙後の価値 | 撃った後の薬莢は平凡な真鍮だ。しかしそれを見た自衛官出身の神隠しは誰もが同じことを問う —— 「……撃ちましたか。」その問いとその答えが、この物が遺す最後の価値だ。 |
#法 3 — 自作ガイド:三乗の公式 (Scene Tool)
この節はScene Tool —— 規則ではなくGMの作業台だ。表を転がしても、選んでも、覆ってもよい。
#公式
貴物の性質 = 元の機能 × 留まった歳月 × 最後の主人の心
元の機能 — 効果の骨格。機能の延長であるか(光を放っていたものが光で
守る)、逆転だ(斬っていたものが生かす)。
留まった歳月 — 年数ではない。年数に「心の濃度」を掛ける変数だ。
百年経った無心な臼よりも、五年を一つの心で留まった
懐中電灯が先に目覚める —— §香の算え方そのまま。
最後の主人の心 — 三つのうち筆頭。縁条件と祟りの方向がすべて
ここから出る。心がすなわち錠であり、心がすなわち棘だ。
#生成器 — 3列 d10
| d10 | 元の機能 | 留まった歳月 — 心はどう積もったか | 最後の主人の心 |
|---|---|---|---|
| 1 | 光を放っていたもの | 一人の傍らで生涯を | 帰りたい |
| 2 | 音・声を納めていたもの | 百人の手を経ながら | 守れなかった |
| 3 | 斬り縫っていたもの | 神壇に祀られたまま | もう一度だけ |
| 4 | 道を指していたもの | 土中に埋もれ忘れられたまま | すまない |
| 5 | 人と荷を運んでいたもの | 戦場から戦場へ引きずられながら | 忘れられたくない |
| 6 | 時間を計っていたもの | 子の手から子の手へ | 遂に言えなかった |
| 7 | 文と絵を納めていたもの | 夜ごと同じ時刻に使われながら | 許さない |
| 8 | 締め守っていたもの | 死んだ者の傍らを守りながら | ここで生きると決めた |
| 9 | 繋ぎ結んでいたもの | 偽りと罪に使われながら | 誰も傷つかぬよう |
| 10 | 撃ち当てていたもの | 誰かの最後の一日を共に過ごし | ありがとう |
組み立ては三歩だ。1列が効果の骨格を与える。2列が強度と周期を与える —— 濃度が濃いほど効果は常時に近く、薄いほど十五夜1回・シナリオ1回へ遠ざかる。3列が縁条件と祟りを与える —— その心を知る者だけが縁を結び、その心に逆らう手に棘が生える。
転がしてみよ —— 4・8・1が出れば「道を指していたもの × 死んだ者の傍らを守りながら × 帰りたい」。帰路針がほぼそのまま出る。本文書の見本六点は全てこの表の上の点だ。
#上限 — 越えない線
生成された貴物の数値はGMが定めるが、見本六点が引いた線を越えない。
- 常時ボーナスは+2まで。 大半は+1が合う服だ。
- 判定なしの命中・自動成功はシナリオ1回まで —— そして最後一発のように、心の条件を共に付けよ。
- 戦力効果は2戦力(会心3戦力)まで。 その上は漂流貴物の器ではない。
- 献身技法は作らない。 それは神器のスロットであり、名品を神器に格上げしないのは名刀器補充巻の原則そのままだ。
- 祟りは選択のメカニックとして。 自動処罰ではなく取引 —— PCが何を受け何を与えるか選べなければならない。
- 目覚めて歩けば妖魔だ。 その瞬間カードを畳み、正典 付喪神のスタットブロックを開け。
最後に、作るGMへ一行。漂流貴物の効果は強さの報酬ではなく物語の残響だ。卓がこの物を受け取って「これは誰のだったんだ?」と問う瞬間 —— カードは己の役目を果たしたのだ。
銃は六十回鳴って沈黙する。しかし沈黙は終わりではない —— 使い切った未来がこの時代の心を含めば、物はそのときから己の物語を始める。
