#12魔人職総覧
目次
魔人職は力の目録である前に、人間がどの一文で人間の座を離れたかを示す目録だ。
#導入断片 — 十二枚の名札
般若会の地下書庫には、十二枚の名札が掛かっていた。
修羅道の名札には乾いた血が付いていた。毒虫師の名札からは薬の匂いがした。イタコの名札の裏には小さな符が貼られ、食人鬼の名札は角が破れていた。
若い学者が問うた。「これは職業の目録ですか」
老いた記録者は首を振った。「いや。戻れなかった理由の目録だ」
「では力はどこに記すのですか」
「力は本編にある。ここには理由を記す」
その言葉に学者は筆を執った。最初の一行にこう書いた。
魔人は妖魔ではない。魔人は人間が自分の名前を捨てる仕方だ。
#使用原則
この文書は co の魔人職データを書き換えない。
- 特技、数値、成長、職業条件は各魔人職の原文に従う。
- 本文書の暗面接続はRP解釈だ。
- 同じ魔人職でもキャンペーンによって異なる暗面を持ちうる。
- 魔人PCには必ずGM許可とテーブル合意が要る。
#12魔人職クイック表
| 魔人職 | 原文 | 主たる暗面 | 堕落の問い |
|---|---|---|---|
| 修羅道 | 修羅道 | 覇、魔 | 戦争が終われば、私は何で息をするのか。 |
| 毒虫師 | 毒虫師 | 魔、虚 | 他人の体を自分の壺と見てよいのか。 |
| イタコ | イタコ | 虚、無心 | 死者を放さないために生者を縛ってよいのか。 |
| 食人鬼 | 食人鬼 | 魔 | 飢えはどこまで免罪符になるのか。 |
| 怪仏 | 怪仏 | 虚、覇 | 動かない救いが世界を止めてよいのか。 |
| 血花 | 血花 | 覇、魔 | 美が血を求めるなら、誰を舞台に上げるのか。 |
| 醜女の使い | 醜女の使い | 虚、魔 | 死の門を開けば、生者の意志はどこに残るのか。 |
| 祟り神 | 祟り神 | 覇、虚 | 罰が救いより容易なとき、私は誰の神になるのか。 |
| 天狗師 | 天狗師 | 魔、無心 | 高く飛ぶほど、人の約束はどれほど小さくなるのか。 |
| 鉄身 | 鉄身 | 覇、無心 | 感情を除けば、責任も消えるのか。 |
| 妖理人 | 妖理人 | 魔、無心 | 理解しようとする刀は、いつ解剖の口実になるのか。 |
| 雑貨商 | 雑貨商 | 無心、覇 | すべてに値が付けば、値のないものはどうなるのか。 |
#修羅道 — 戦争が人間に取って代わるとき
原文: 修羅道
修羅道の本質は「強い戦士」ではなく、戦争の後にも戦争の体でしか生き延びられなかった者だ。鬼の核は怪物化を説明する装置だが、本当の核は戦闘が終わった後に訪れる空白だ。修羅道は敵がいなければ息ができず、平和が来れば自分が無用になったと感じる。
うまく表現するには、怒りより 習慣 を見せる。飯を食うときも戦場の配置を見、会話の最中にも出口を数え、祭りの太鼓を進軍の合図のように聞く。彼は戦いが好きだから戦うだけではない。戦わないとき自分を説明する言葉がないから戦う。
少し違う方向としては、「狂戦士」より「秩序ある戦争中毒者」がよい。命令、陣形、軍律、戦功の記録に執着する修羅道は覇に近い。逆に血の匂いと捕食、肉体の快楽に惹かれる修羅道は魔に近い。前者は将軍型の悪役であり、後者は戦場の災厄だ。
場面の問い:
- この人物は平和な部屋で何に耐えられないのか。
- 戦争は終わったと誰かが言ったとき、彼は誰を新たな敵に指定するのか。
- 人間性が残っているなら、どの名前のために刀を緩めるのか。
#毒虫師 — 他人の体を戦場とする者
原文: 毒虫師
毒虫師の本質は毒より 内部侵蝕 だ。修羅道が扉を破って入ってくるなら、毒虫師はすでに内にいる。体、井戸、食糧、噂、信頼のように、内側にあってこそ安全なものを戦場に変える。
うまく表現するには、殺意より 管理者の態度 を与える。壺の中の虫を数えるように人を数え、病が広がる速度を天気のように語り、苦痛を実験記録に変える。毒虫師は残酷だから怖いだけでなく、残酷さを繊細に世話するという点で怖い。
別の方向性としては、復讐者、薬師、防疫官、忍びの教官が可能だ。復讐者型の毒虫師は一つの家門や城を内側から崩す。薬師型の毒虫師は治療と毒の境界を曖昧にする。防疫官型の毒虫師は「より大きな感染を防ぐため」に人を捨てる虚の顔を持つ。
場面の問い:
- この人物はいつから他人の体を場所のように見始めたのか。
- 毒を使わずに誰かを内側から崩す方法は何か。
- 治療を求められたとき、彼は治療と実験のどちらを先に思い浮かべるのか。
#イタコ — 死者を放さない生者
原文: イタコ
イタコの本質は霊魂の借用ではなく 哀悼の失敗 だ。死者の言葉を聞く能力は、最初は慰めのように見える。しかし時が経つと死者は去れず、生者は自分の声を失う。
うまく表現するには、「霊媒」より 声の混線 を見せる。同じ問いに複数の死者の言葉が重なり、イタコは自分の判断を死んだ家族の意志として包む。重要なのは死者が本当に語ったかより、イタコがその言葉を自分の選択の責任から逃れるために使うかだ。
別の方向性としては、家族を守ろうとするイタコ、戦場の記録者であるイタコ、権力者の専用霊媒がある。家族型のイタコは愛と所有が曖昧になる。記録者型のイタコは死者の証言を集めて世界を告発する。権力型のイタコは死者の名前を政治的武器に使う。
場面の問い:
- この人物の声のうち、どこまでが自分のものか。
- 死者が去りたいと言ったら、イタコは放してやれるのか。
- 生者が死者と違う選択をするとき、彼は誰の側に立つのか。
#食人鬼 — 飢えが世界観になった者
原文: 食人鬼
食人鬼の本質は捕食ではなく 飢えの哲学化 だ。空腹は誰にでもあるが、食人鬼はその空腹を世界の法則にする。食べたという事実より恐ろしいのは、食べることが彼にとってあまりに論理的に見えるという点だ。
うまく表現するには、野獣性だけを押し出さない。食人鬼は食物、狩り、死体、季節、飢饉についてとても具体的に語らねばならない。彼は比喩ではなく実際の感覚で世界を読む。人の名前より匂いと骨の重さを先に覚えれば、食人鬼の視野が鮮明になる。
別の方向性としては、飢饉の生存者、山の裁判官、戦場の清掃人、半妖の血筋の帰郷者がある。飢饉の生存者は最初に食べたことをいまだに言い訳する。山の裁判官は弱い者が食われるのを自然と呼ぶ。戦場の清掃人は死体を処理するという実用性から始めて、線を越える。
場面の問い:
- この人物はいつ初めて人を糧と呼んだのか。
- 飢えていない日にも同じ選択をするのか。
- 自分を餌と見るより大きな存在に出会ったとき、彼は自分の哲学を保てるのか。
#怪仏 — 動かない救いの暴力
原文: 怪仏
怪仏の本質は不滅や防御ではなく 静止 だ。怪仏は動かないことで世界を自分の周りに合わせさせる。彼は救済者のように見えるが、その救いは出向く救いではなく、皆が来て止まらねばならない救いだ。
うまく表現するには、言葉より周囲を見せる。怪仏は語れないか、語らなくてよい。代わりに彼を守る人、彼のために道が変わった村、彼の前で泣けない信者、彼が動かないために死んだ人が場面を作る。
別の方向性としては、本物の聖者に近い怪仏も可能だ。この場合、恐怖はより複雑になる。彼は本当に妖魔を防ぎ、人を救ったかもしれない。問題はその救いが人々に選択肢を残すかだ。善良な怪仏ほど、その周りの人々が怪仏の沈黙を自分の権力として解釈しやすい。
場面の問い:
- この人物は誰を救うために初めて止まったのか。
- いま、誰がその静止を利用しているのか。
- 彼が一歩動けば、誰が生き、何が崩れるのか。
#血花 — 美が血を求めるとき
原文: 血花
血花の本質は血の快感だけでなく 観客を求める暴力 だ。血花は死を事件にせず舞台にする。血が流れたという事実より、その血がどんな構図と拍子で見えたかが重要になる。
うまく表現するには、残酷さより美学を先に立てる。血花は衣の裾、足音、視線、照明、沈黙を意識する。戦闘は殺戮でありながら公演であり、公演は他人を自分の場面の小道具にする過程だ。
別の方向性としては、舞姫型、扇動家型、復讐劇の演出家型がある。舞姫型の血花は自分の体と血のリズムに執着する。扇動家型の血花は群衆を動かし、味方の士気を血で引き上げる。復讐劇の演出家型の血花は特定の家門や英雄に最も美しい破滅を準備する。
場面の問い:
- この人物はいつから苦痛より構図を先に見るようになったのか。
- 観客がいないときにも同じ悪行を犯すのか。
- 誰かが彼の舞台を拒んで背を向ければ、彼は何を失うのか。
#醜女の使い — 閉じるべき門を開く者
原文: 醜女の使い
醜女の使いの本質は死霊召喚ではなく 境界の裏切り だ。陰陽師と密教僧は本来、境界を読み、閉じ、浄化する職業だ。醜女の使いはその知識を逆さまに使い、閉じるべき門を開く。
うまく表現するには、死より門を強調する。敷居、川、洞窟、鏡、葬儀の境界のような場所が重要だ。この魔人は「死者を操る」より「戻ってはならないものを戻らせる」が核心だ。
別の方向性としては、門番だった裏切り者、黄泉の外交官、死者の解放者、終末の予言者がある。門番型は自分の義務を裏切る。外交官型は黄泉と現世を取引関係として見る。解放者型は死者を抑圧から解き放つと主張する。予言者型は生者の時代が終わったと信じる。
場面の問い:
- この人物はどんな門を初めて開け、なぜ閉じなかったのか。
- 死者が戻ることが、誰にとって救いで、誰にとって災厄なのか。
- 門を開けるなら、閉じる責任も自分のものだと思っているのか。
#祟り神 — 罰が信仰に取って代わるとき
原文: 祟り神
祟り神の本質は呪いより 審判の欲望 だ。彼は神に見捨てられたと感じた後、神の座を罰で埋める。祟り神は人を憎むからだけで罰するのではない。罰しなければ世界が崩れると信じるから罰する。
うまく表現するには、怒りより手続きを与える。祟り神は罪状を記し、証言を集め、儀式を整える。私的な復讐なのに公的な審判のように見せる。だから従者ができる。人々は復讐より審判という言葉をより容易に信じるからだ。
別の方向性としては、被害者の神、反乱の守護神、堕落した裁判官、呪われた聖人がある。被害者の神は最初は弱者の側に立つ。反乱の守護神は不当な権力に立ち向かうが、やがて自分の罰を絶対化する。裁判官型は証拠より処罰の完結性を愛する。
場面の問い:
- この人物はどんな不義の前で神が沈黙したと感じたのか。
- 罰が終われば、彼は何として残るのか。
- 無実の人が自分の罰に巻き込まれたとき、彼は手続きを直すのか、罪状を新たに作るのか。
#天狗師 — 高みから人間を小さく見る者
原文: 天狗師
天狗師の本質は機動性ではなく 高度の差 だ。彼は物理的にも上にいるが、心も上にある。問題は、その高さが洞察なのか傲慢なのか、しばしば曖昧になるという点だ。
うまく表現するには、風と距離感を与える。天狗師は人を近くで見ない。村は点であり、戦争は流れであり、人間の約束は山の下の騒音のように聞こえる。それでいて彼は完全に自然ではない。人間が高みに登って人間を見下ろすことが、天狗師の危険だ。
別の方向性としては、山の守護者、追放された弟子、天の暗殺者、傲慢な師がある。山の守護者は人間の侵犯を防ぐうちに魔へ傾く。追放された弟子は天狗に認められるために人間性を捨てる。暗殺者型は誰も届かない距離から結果だけを作る。
場面の問い:
- この人物は何を見下ろしながら、初めて人の約束を小さく感じたのか。
- 山の下の一つの名前が、彼を止められるのか。
- 高く飛べない場所に閉じ込められれば、彼はまだ天狗師なのか。
#鉄身 — 苦痛とともに心まで止めた者
原文: 鉄身
鉄身の本質は機械化ではなく 感情除去の誤解 だ。彼は苦痛を無くしたかったし、恐れを無くしたかったし、裏切りの揺らぎを無くしたかった。しかしその過程で、責任を感じる能力までを欠陥として処理する。
うまく表現するには、冷たい口調より計算の脱漏を見せる。鉄身は効率をうまく計算するが、誰かがなぜその効率を拒むのかを理解できない。彼は残酷さを選ぶというより、残酷さを変数に入れない。
別の方向性としては、要塞の設計者、改造の匠、傷ついた生存者、無感情の指揮官がある。要塞の設計者は人を城壁の一部と見る。改造の匠は欠陥を直すと言いながら人を変える。生存者型は感情を取り戻したいが、取り戻した瞬間に崩れることを恐れる。
場面の問い:
- この人物はどの感情を最初に除去しようとしたのか。
- 効率的な選択が古い約束を破るとき、彼は約束を誤りと見るのか。
- 誰かが非効率な慈悲で彼を救えば、彼はそれをどう記録するのか。
#妖理人 — 理解が解体に変わった者
原文: 妖理人
妖理人の本質は学問ではなく 対象を完全な存在のまま置けない知識欲 だ。彼は妖魔を理解したいと言う。しかし理解の方法がいつも分離、切開、分類、再組み立てであるなら、その理解はすでに暴力だ。
うまく表現するには、狂気を叫ばせず、学者の親切さを残す。妖理人は説明が上手く、標本を整理し、実験対象にも礼儀正しくありうる。だからこそより不快だ。彼は憎いから切るのではなく、知らねばならないから切ると信じる。
別の方向性としては、医者型、外人科学者型、妖魔共存研究者型、戦場解体者型がある。医者型の妖理人は治療と解剖の境界で揺れる。共存研究者は妖魔を理解してこそ人間と共に生きられると主張する。戦場解体者は敵を部品と弱点の集合と見る。
場面の問い:
- この人物はいつ初めて「生きたまま知らねばならない」と考えたのか。
- 理解した対象により大きな尊重を持つのか、より容易に扱うのか。
- 妖魔が彼を同じ仕方で研究しようとするとき、彼は自分の方法を認められるのか。
#雑貨商 — 値が付けば世界は安全だと信じる者
原文: 雑貨商
雑貨商の本質は金ではなく 価格化 だ。彼は金貨を好む商人ではない。すべてに価格が付けば予測可能になり、予測可能なら裏切りも損失として計算できると信じる人だ。だから値のないものを最も恐れる。
うまく表現するには、強欲より取引の言語を与える。友も信仰も復讐も安全も、すべて条件と担保と配当で語る。雑貨商は人を欺くこともできるが、より恐ろしい雑貨商は契約を守る。契約の中で人を壊すだけだ。
別の方向性としては、闇市場の調整者、戦争物流商、情報仲介人、邪教の会計官がある。闇市場型は両方に売る。物流商は戦争を止めれば自分の世界が崩れる。情報仲介人は秘密を商品にして関係を破壊する。会計官は信仰すら維持費と収益として見る。
場面の問い:
- この人物はいつからただの好意を脅威と感じるようになったのか。
- 値の付かないものに出会ったとき、彼は破壊するのか、所有しようとするのか。
- 自分の命の価格を誰かが代わりに支払えば、彼はそれを恩義と見られるのか。
#PCとして使うとき
魔人PCは「強い職業」ではなく「危険な問い」だ。
プレイヤーは次の三行をまず定める。
私の暗面: 覇 / 虚 / 魔 / 無心 のうち何を中心に見るか。
私の禁忌: このキャラクターがすでに越えた線は何か。
私の残った名前: まだ捨てられない人、場所、約束は何か。
この三行がなければ、魔人PCは戦闘特技の束になりやすい。
#NPCとして使うとき
魔人NPCはテーブルに問いを投げる鏡だ。単に強い敵として立てるより、PCと同じ問いに違う答えを出した人物にする。
例:
- 忠実な侍PCの前に、覇へ傾いた修羅道を置く。
- 慈悲深い浄土僧PCの前に、虚へ傾いた怪仏を置く。
- 玄道系PCの前に、魔へ傾いた食人鬼や天狗師を置く。
- 無心な浪人PCの前に、雑貨商を置く。
NPCの戦闘力は co が提供する。本巻はNPCがなぜその力を使うのかを作る。
#サンプルと併せて使う
具体的な1段、5段、10段の魔人例は 魔人サンプルを見る。
サンプルを使うときは、次を変えてもよい。
- 堕落の最初の傷。
- まだ残った古い名前。
- 英雄の鏡となるNPC。
- 最後に止まれる場面。
変えてはならないのは、各魔人職の原文データだ。
#一行運用法
| 必要 | 方法 |
|---|---|
| 手早い悪役NPC | 魔人職一つ + 暗面一つ + 停止の場面一つ。 |
| 長期のライバル | PCと同じ信念から出発した魔人にする。 |
| 魔人PC | 暗面の宣言、禁止線、終結の仕方をまず合意する。 |
| 勢力の首領 | 魔人職より、従者が信じる嘘をまず定める。 |
十二の魔人職は十二の怪物ではなく、人間が自分の言い訳を最後まで押し進めた十二の仕方だ。
